【ミーツ・ザ・ワールド】
- 鑑賞日 2025/10/24
- 公開年 2025
- 監督 松居大悟
- 脚本 國吉咲貴, 松居大悟
- キャスト 杉咲花、南琴奈、板垣李光人
- あらすじ 擬人化焼肉漫画をこよなく愛するも、自分のことは好きになれない27歳の主人公・由嘉里(杉咲花)。結婚や出産でオタク仲間が次々と「離脱」していくのを見て、焦りを感じた彼女は婚活を始めるが惨敗。歌舞伎町の道端で酔いつぶれていたところを美しいキャバ嬢・ライに助けられ、その出会いが由嘉里を新たな世界へ導いていく。
- ジャンル 日本映画 ドラマ
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り ×(×、△、〇、◎の四段階)
感想
夜の世界でしか味わえない万能感と高揚感、それと同時に孕む虚無感や希死念慮。 そういった心の機微を、構図や演出で見せてくれるのかと思いましたが、全編を台詞で説明させる「朗読劇」のような造りでした。
その構成に全振りするには、主役と周囲の演技力に差がありすぎて、死への説得力が追いついていない……正直なところ、僕には少し退屈に感じられてしまいました。
歌舞伎町という「ファンタジー」への違和感
日本で最も欲望が集まる街・歌舞伎町を舞台にしながら、性欲を排除したファンタジーな世界観。今の若い世代の性欲が希薄なのだと描きたいのかもしれませんが、であれば、あの場所であれほど違法な立ちんぼや性産業が溢れるはずもありません。
夜の世界を知らない人が、「こんな素敵な人たちだったらいいな」と妄想したような世界。バーのマスターや小説家のお姉さんや優しいホストなど、エモい名セリフを呟き、下心も悪意も全くない聖人ばかりが登場し、主人公はたまたま恵まれてそのような人たちとばかり出会います。あの万魔殿で、なんと運のよい事でしょう。東横キッズの周りの大人たちもこんな人たちばかりだったらいいのに…
杉咲花さんの「重み」と作品の「軽さ」
そのテイストが悪いとは言いません。であればそちら側に脳内スイッチを切り替えて楽しむだけです。ただ、ここまで「エモ」に振り切る作品であれば、主人公ももっと軽やかであって欲しかった。しかし、そこは杉咲花さん。彼女の圧倒的な演技力が、この作品では完全に逆効果になっていたように思います。
彼女が演じる「死」という重みは、他作『市子』で見せたような、あまりに重厚で逃げ場のない概念です。それに対して今作が描く「死」は、どこかアイコニックで重みがありません。その圧倒的な乖離に、僕はどちらのリアリティラインで観ればよいのか、かなり戸惑ってしまいました。
クライマックスの鼻水を垂らしてまでの名演技も、その先にあるライの生き死にが「ファッション」としてしか伝わってこないため、どうしても彼女の一人芝居に見えてしまいました。監督が杉咲さんの演技に頼りすぎている、そんな印象を受けます。
もし、僕の胸にライの死という壮絶な重みが刺さっていれば、この杉咲さんの慟哭に、深く深く感銘できただろうに……と、悔やまれてなりません。『市子』の時の杉咲さんの真っ暗な目は今でも脳裏から離れないのに。
「ゴミ」の描写に見えた確かなリアリティ
一方で、ゴミの描写はとても良かったです。ライのゴミ部屋や歌舞伎町の朝の風景、夜の世界で生じた様々なゴミ袋。それはそこに人がいた証であり、戦った証拠でもあります。「兵どもが夢の跡」のような空気感は非常に見応えがありました。あれだけ淡泊に、この世に未練が無さそうなライであっても、日々ゴミは生じる。あのゴミ部屋は、わずかに残ったライの生きる意志にも見えました。
主人公から見たらただの汚いゴミでも、ライから見たらなんとか今日を乗り切った証なのかもしれない。そういう証に囲まれてやっとこさ日々生きているとしたら、一方的に「よくないこと」として善意で片づけてしまうのがどういう意味を持つのか。そういった主人公の独善の描き方が、終始見事です。そしてそれに気付いた時の、杉咲さんのラーメンの食べ方も。
最後の、夜が明けた歌舞伎町のゴミだめに少しの希望が混じって見える、あの光景も見事でした。仕事明けのキャストがふらふらと歩く姿も最高ですね。「一晩中ゲロ吐きながら頑張ったんだろうな」と感じさせる、嫌いになれない街の姿がありました。汚いけど美しい、儚いけど強い、善と悪のグラデーションに生きる人々が愛おしい、そんな所がこの街の魅力なのに、その「汚い」部分を全て排除したのが非常に残念でした。
理解し合えない他者との「断絶」
ライの希死念慮には、幼少期の虐待や凄惨なトラウマといった具体的な描写はありません。 大事なのは、理由の有無にかかわらず「そういう人はいるのだ」という事実を、主人公にはどうしても理解できないということです。「死にたい理由があるはずだ、それを解決すれば救われる」と信じて疑わない、完全なる自己欺瞞。
この「分かり合えない他者との圧倒的な断絶と絶望感」。誰もがこの様な経験をしたことがあるハズです。まるで宇宙人と話しているかの様に、全く分かり合えない存在。一方的に独善を押し付けてくる恐ろしさ。
だからこそ! そのリアリティを、水中にいる様なエモい雰囲気で誤魔化すのではなく、台詞や抽象表現に逃げるのではなく、脚本と演出の力量でしっかりと、克明に描いて欲しかったです。死を扱うなら尚更に。歌舞伎町で苦しむ若者を扱うなら尚更に。
夢のような妄想ではなく清濁併せ呑む現実で、あがきながらも成長する物語が見たかった…
そもそも僕みたいなオッサンに向けて作られた作品ではないでしょうから
あの街の「純粋な一側面」をピュアに切り取ったという意味では、これこそがこの物語の正解なのだろうな、とも思います。本来のターゲット層である今の若い世代には、痛烈に、そして心地よく刺さるはずです。
世代によって見え方が全く変わる、それもまた映画の素晴らしさですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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