【映画レビュー】「ほどなく、お別れです」綺麗でソツのない作りだけど、もう少し抑揚が欲しかった一作。

映画

【ほどなく、お別れです】

  • 鑑賞日 2026/02/10
  • 公開年 2026
  • 監督 三木孝浩
  • 脚本 本田隆朗(脚本監修:岡田惠和)
  • キャスト 浜辺美波(清水美空)、目黒蓮(漆原礼二)、森田望智、北村匠海、光石研、志田未来、渡邊圭祐、古川琴音
  • あらすじ 就職活動に連敗中の大学生・清水美空には、「亡くなった人の声を聴くことができる」という秘密の能力があった。彼女は、ある葬儀場で働く葬祭プランナー・漆原礼二と出会い、その能力を見出されてインターンとして働き始める。事故や複雑な事情を抱えた葬儀を担当する中で、美空は漆原と共に、遺族と故人の想いを繋ぐ「最高のお見送り」を目指して奔走する。
  • ジャンル 日本映画 ヒューマン ドラマ 
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り △(×、△、〇、◎の四段階)

感想

ちょっと昔なら大体予告編から自分の好みの映画なのかどうかある程度取捨選択できたのですが、最近は広告戦略がどの様になっているのか、良くも悪くも内容が読めないものが増えた印象です。今作も予告編を観る限りは、本来なら僕対象の映画では無さそうに見えたのですが、前途の理由もあって鑑賞いたしました。

感想としては、非常に綺麗でソツのない予告通りの優等生な映画でした。

画面全体にかけられたフワッとぼやけたフィルターが、まるでこの世とあの世の狭間でたゆたっているようでとても美しく、物語のテーマとも見事に合致していて、とても良かった。

豪華なキャスト陣と、画面を引き締める重力

圧倒的な華やかさとオーラを持つ浜辺美波さんと目黒蓮さんが主演ということもあり、死を扱う物語でありながら、どうしても画面からはキラキラとした美しい印象を受けます。しかし、そこを脇を固めるベテラン勢がビシッと締めてくれました。

初っ端から登場した、北村匠海さんや森田望智さんが出てきた途端、映画の雰囲気がズンと重くなり、しっかりと死の深さが画面から滲み出るようになったのは流石です。本当にすごい役者さんたちですね。

目黒蓮さんの、低く軽い振動のある声も本当に素晴らしかったです。「ほどなく、お別れです」という抑揚を抑えたセリフも、深い愛を帯びた響きに聞こえ、改めて「良い声だな」と聴き惚れてしまいました。

また、本作は真っ向からご遺体も映し出しており、物語のテーマ性をビジュアルでも真摯に、丁寧に描き出そうとする姿勢が全編を通して伝わってきました。

誠実な作りゆえに感じた、さらなる「欲」

作品が非常に丁寧で真摯だったからこそ、一映画ファンとして感じた個人的な課題についても触れたいと思います。下記からは批判も含まれますので、この映画が大好きな方は、ブラウザバックして下さいませ。

全編を通して非常に穏やかなトーンで進むため、物語に「緩急」を求める身としては、少し単調に感じてしまう部分もありました。本作はオムニバス形式で四人のお葬式を描いていますが、その全てが同じようなテイストと抑揚で進行するため、上映時間の多くを「泣いているシーン」が占めています。

個人的な好みではありますが、死を深く描くのであれば、対比として同じくらい「生」のエネルギーを、悲しみを描くなら同じくらい「笑い」を描いてほしかったと感じます。ずっと可哀想な絵面と演技だけが続くと、感情が飽和してしまうのです。

例えば似た題材である邦画『おくりびと』では「死の危険があるふぐの白子を美味しそうに食べるシーン」や、山崎努さんと本木雅弘さんの絶妙なやり取りといった「クスリと笑える日常」があるからこそ、納棺師という仕事の尊さと誇りが伝わってきました。

洋画コーダ あいのうたでも、下品なギャグや下ネタが溢れているからこそ、耳が聞こえない家族とのコミュニケーション、という現実の重さが際立ちます。

バディものであるなら、もっと軽快なやり取りや笑える場面があればあるほど、シリアスな場面の鋭さがより突き刺さったのではないかと思います。

感情移入と演出のバランス

四回お葬式の見せ場がある分、亡くなられた方のパーソナリティが回想でしか語られないため、感情移入の難しさを感じた点も否めません。 前述したように、一人の人間の死を心から悲しむためには、その人が生前どんな人間で、どんな家族がいて、どんな食べ物が好きで、何に喜び、怒り、憎んだのか……。そうした事細かな描写があって初めて、その人の最期に心から涙できるのだと思います。ただ登場人物が泣いているから、僕も泣ける、にはどうしても、もうなれない年齢になってしまいました。

また、これは価値観の違いですが、大勢の前でご遺体に長々と号泣しながら話しかけるシーンも、個人的には少し違和感を覚えてしまいました。それが自身の心を整理するために必要なプロセスであることは理解できるのですが、劇的な演出としての側面が強く見えてしまい、例えばせめて自分しかいない、とか、家族しかいない場所、とか、心の中で会話する、など、もう少し自然な語りかけの形になれば……と感じる場面もありました。

さらに、劇伴(テーマ曲)についても、盛り上げどころで何度も流れるため、耳が慣れてしまったのがもったいない。ここぞ!という場面で効果的に響かせてほしかったです。

丁寧に寄り添う「綺麗な死」の物語

一つひとつのエピソードは美味しいケーキなのですが、沢山出てくるために「お腹一杯、胸一杯」になってしまった……という、贅沢でもったいない仕上がり。コース料理のように、笑いのある前菜から徐々に盛り上げて、メインディッシュでドーンと感動させるような構成であれば、もっと嬉しかったです。

とはいえ、劇場からはたくさんすすり泣く声が聞こえてきました。多くの方に届く、この作りこそが大正解なのだとも思います。死という重いテーマを扱いながらも、非常に美しく、爽やかに安心して観ていられる一作でした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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