【映画レビュー】「ワン・バトル・アフター・アナザー」/分断の時代に、血筋を超えた「愛」の希望を見る。

映画

【ワン・バトル・アフター・アナザー】

  • 鑑賞日 2025/10/15
  • 公開年 2025
  • 監督 ポール・トーマス・アンダーソン
  • 脚本 ポール・トーマス・アンダーソン
  • キャスト レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ
  • あらすじ かつては世を騒がせた冴えない元革命家のボブ(レオナルド・ディカプリオ)。彼が最愛の娘と平凡な日々を送る中、突然娘が何者かに狙われ、生活が一変する。異常な執着心を持つ変態軍人ロックジョー(ショーン・ペン)に追い詰められ、次から次へと迫る刺客たちとの死闘に身を投じていく。
  • ジャンル アメリカ映画 ドラマ アクション サスペンス
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)

感想

全編のめり込んで、夢中で観ました。

それほどまでにソリッドで、ハラハラさせる演出、構図、そして物語。笑いの部分に関してはなかなか割り切って楽しむことはできませんでしたが、この重厚な題材を極上のエンターテインメントとして体験させてくれるのは、やはり米国映画の凄まじいところだと痛感しました。

陰謀論の「ハッタリ」が効いた奇妙な世界観

劇中に登場する白人至上主義の秘密結社。無知な僕は「本当にこういう組織があるのでは?」と信じてしまうレベルでした。(あるのかな…)
豪華な宮殿や最新鋭のセキュリティではなく、民家の地下に広がる、狩猟のイラストが描かれた壁紙のような内装……。あのチープさと不気味さが同居した空間が、嘘か本当かわからない「ワクワクする陰謀論」のようなハッタリを効かせていて、たまらなく素敵。

叫び狂うディカプリオと「日米のルール観」

レオナルド・ディカプリオがオペレーターを詰める下りは、お国柄が出ていて非常に興味深かったです。日本人の僕は、「いや、一人でも合言葉ナシを認めちゃうとルール自体が破綻してまうがな」とオペレーター側に同情してしまいましたが、アメリカの方々は「そんなん時と場合によるやろ!」となりそうですよね(笑)。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でもそうでしたが、叫び狂うディカプリオは本当に最高です。これは今までのハリウッドでの生き様も含め、トム・クルーズやブラッド・ピットには到底できない、彼独自の芸当だと言えるでしょう。

唯一無二のキャラクター造形と「愛」の行方

ベニチオ・デル・トロのキャラ造形なんて、よくこんな設定を思いつくなと驚かされました。監督の知り合いにそのままのモデルがいないと作り上げられないような、生々しいリアリティがあります。

また、今作の思想に対するニュアンスも非常に興味深かったです。
思想が一番弱いディカプリオが、その弱さゆえに活動から身を引いて子供への愛に目覚める一方で、思想が強い妻は思想ゆえに子供を放棄する。この対比は、まさに今のアメリカを象徴しているように感じました。

『愛はステロイド』でも感じましたが、これまでのテンプレ化した女性像から一歩踏み込んだ多様な描き方が出てきたのは素晴らしいです。ステレオタイプな男女の二元論から、ジェンダーを捉えた別のステレオタイプな描き方を経て、さらにここにきて多様性がさらに増した印象です。

アルゼンチンの荒野を思い出した、決死のカーチェイス

クライマックスのカーチェイスは、日本では信じられないようなアスファルトの高低差を利用した、超新鮮な演出でした。

実は僕もアルゼンチンに住んでいた頃、これくらいの荒野で「向こう側が見えないほどの高低差」が当たり前の環境にいたのですが、対向車が来るかどうかもわからない状態で平気で前の車を追い越したりするマナーを思い出し、今さらながらゾッとしてしまいました。あの瞬間の恐怖と興奮が、映画の画面を通して蘇った気分です。

秀逸な構成:ミニマムな物語から見る社会問題

テーマとしては「革命」や「移民」など大きな社会問題を扱っていますが、今作はキャラクター一人ひとりの造形がとにかくしっかり作り込まれています。

  • 妊婦でありながらライフルを撃ちまくるペルフィディア
  • 一生懸命だけれど自分の力ではほとんど解決できていないボブ
  • 自身の思想と相反する特殊性癖を持つロックジョー

彼らの超私的でミニマムな物語を通して、背後にある大きな社会問題を見せるという構成が素晴らしかったです。設定ばかりが凝っていて人物の掘り下げができていない、ただの「絵が綺麗な紙芝居」で終わってしまっている壮大なSF映画などは、ぜひこの作品を見習ってほしいですね。

難しいテーマがわからなくても十二分に楽しめる!

正直、時事性や思想など難しい内容かと身構えていましたが、純粋にアクション・サスペンスとして秀逸で、表層だけを見ても最高に面白い一作でした。

排外主義と分断が極まった現代において、人種や血筋とは関係なく「愛」を描いたラストシーンには、ほのかな希望を感じることができました。のめり込んで損はない、大変な力作です!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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