【アニメレビュー】「ホウセンカ」/静寂と余白が紡ぐジャパニメーションの底力。

アニメ

【ホウセンカ】

  • 鑑賞日 2025/10/18
  • 公開年 2025
  • 監督 木下麦
  • 脚本 此元和津也
  • キャスト 小林薫(阿久津実・現在), 戸塚純貴(阿久津実・過去), 満島ひかり(那奈・過去), 宮崎美子(那奈・現在), ピエール瀧(ホウセンカ)
  • あらすじ 「ろくでもない一生だったな」独房で孤独な死を迎えようとしていた無期懲役囚の老人・阿久津は、人の言葉を操るホウセンカに声をかけられる。会話の中で、彼は過去を振り返り始める。1987年の夏、しがないヤクザだった阿久津は、恋人の那奈とその息子と共に、慎ましくも幸せな日々を送っていた。しかし、大金を工面しなければならなくなり、彼は組の金庫にある3億円の強奪を企てる。ある一人の男の、人生と愛の物語。
  • ジャンル 日本アニメ ドラマ ヒューマン
  • 鑑賞媒体 映画館 
  • お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)

感想

呼吸に合わせて上下する胸と、波間にたゆたう漁船。 打ち上げ花火と遠吠えする犬。 皿絵のトマトのヘタと、赤子の髪の毛。

丁寧な対比と構図で綴られる本作を観て、まずはジャパニメーションの振り幅の凄さに感動しました。ド派手なアクションの『鬼滅の刃』や、熱いスポーツ物の『100えむ』がある一方で、こうした静かなドラマにもしっかりとお金をかけ、それも劇場版として、丁寧に作ることができるこの業界の層の厚さを改めて感じました。

「会話」と「余白」で魅せる贅沢なアニメーション

本作は、非常に「テキスト」で魅せる作品です。テキストといっても、物語をセリフで説明し切るのではなく、会話と余白、そして丁寧な演技で見せていく。加えて背景美術の間が、実に心地よいエッセンスになっていました。

正直、これほど地味なビジュアルで派手なアクションもないストーリーを、よく劇場版として企画できたものだと驚きました。これは同制作陣の『オッドタクシー』などの成功実績が、業界に新しい風を吹かせた結果なのでしょうが、こうしたアニメが定期的に作られる業界であってほしいと、切に願います。

「心臓移植」と「ヤクザ」という題材の難しさ

一方で、ストーリーやテーマに関しては、もう少し人間の掘り下げや深さが欲しかったというのが正直なところです。

特に気になったのは、心臓移植に関する倫理観。時代が古いとはいえ、本来の順番待ちを、金に物を言わせて横入りするようなシステムが根底にあるため、どうしても主人公側に感情移入がしにくかったです。クライマックスの大逆転の着地点も、あれだけ溜めた上でこの選択肢か、というのも、少し消化不良を感じてしまいました。

また、ヤクザという題材の扱いも現代では難しくなっていると感じます。 ひと昔前なら「ヤクザの矜持」への理解もあり、「悪いことをしていても根は良い人」というグラデーションが許容されていました。しかし、今は白黒はっきりしないと許されない時代です。「良い話風にしているけれど、所詮は犯罪者でしょ?」と、拒絶反応を示してしまう層も少なくないかもしれません。

これは昭和風の人情話を作る上で、これからかなりの障壁になってしまいますね。「この頃はこれが許されたんだよ」が通用しない時代になってます。

劇場版としての「もう一歩」

作品自体は間違いなく良作なのですが、地上波ドラマなら十分なクオリティでも、お金を払って鑑賞する劇場版としては、もう一歩「斜め上の展開」や「魂が震えるほどの落涙ポイント」が欲しかったところです。

オチが早い段階で読めてしまう内容だったこともあり、「わざわざ劇場へ足を運んで観るべき何か」があったかと言われると、オススメとして少し難しいところです。総じて「ちょうど良い」という印象に落ち着いてしまいました。

アニメーションとしてのクオリティは抜群

色々と言及しましたが、アニメーションとしてのクオリティは高く、その静かな佇まいには一見の価値があります。派手な演出に頼らず、これだけ贅沢な「間」を楽しめる作品は今の時代、とても貴重です。

上記で前途した通り、こういった人情話は今後作られなくなるかもしれないので、僕は観ておいて良かった一作でした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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