【映画レビュー】「ウィキッド ふたりの魔女」/脳髄を震わせる圧倒的エンターテインメント

映画

【ウィキッド ふたりの魔女】

  • 鑑賞日 2025/03/24
  • 公開年 2025
  • 監督 ジョン・M・チュウ
  • 脚本 ウィニー・ホルツマン
  • キャスト シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ
  • あらすじ ミュージカル『ウィキッド』の映画化作品。エメラルドシティを目指す前の、若き日のふたりの魔女、エルファバとグリンダの出会いと友情、そしてそれぞれの運命が描かれる前編です。
  • ジャンル アメリカ映画 ファンタジー ミュージカル 
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)

感想

とてつもない!とんでもない!のっけから圧巻のオープニング‼

この作品の凄さは、これほどまでに深くて重いテーマを扱いながら、決して説教臭くせず、安易な「お涙頂戴」にも逃げず、高尚なアート風に気取ることもない点にあります。仕上げられたのは、混じりけなしの圧倒的エンターテインメント。

幸せです……。まさに至福の時間でした。

最高のスタッフが「最高の方向性」へ全ベットした結晶

最高のスタッフが最高の予算をかけ、それを「正しい方向」へと全ベットしたとき、これほどまでに凄まじいものが出来上がるのかと震えました。

もちろん楽曲自体の素晴らしさは言わずもがなですが、それを最大限に活かす構成が実に見事です。単に曲を垂れ流すのではなく、フレーズの一つひとつが最も映えるよう、計算し尽くされたカット割り、アングル、そして演者の表情。これは舞台の再現ではなく、「映画でしか表現できないミュージカル」としての完成形です。

冒頭の農村のシーンで、クレーンを駆使して全体をフェイドアウトさせながら、燃える藁人形を背にタイトルバックが映し出される——。ここから既にこの映画に魅了されました。

五臓六腑を駆け抜ける「ディファイング・グラヴィティ」のカタルシス

メインソングでもある「ディファイング・グラヴィティ(重力に逆らって)」の大サビ、

“So if you care to find me Look to the western sky!(そう、私を思い出すときには
西の空を見上げて!)”

このフレーズが響いた瞬間、稲妻がつま先から五臓六腑を突き抜け、脳髄まで駆け抜けるほどの衝撃!そこから文字通り重力に逆らって飛翔するエルファヴァ。そのカタルシスたるや、思わず劇場で雄叫びを上げたくなるほどの興奮でした。

つづくラストのエルファヴァのとてつもない「あぁ〜ああ〜あ〜!!」という慟哭で終わると思いきや、「ドン!デン!ドン!デン!」というドラムロールと「はあぁぁぁぁ‼」という重厚な男女コーラスが入っての、ばぁん!とタイトル!
いぃぃいぃいぃぃぃ‼ もう劇場の僕は思わずスタンディングオベーションをしてしまいそうな程の大興奮でした。こんなに脳汁が出るラストは久しぶりです。

言葉を超えた「和解」と「孤独」の舞踏

ダンスホールでいがみ合う二人が分かり合うあのシークエンスも最高で、2025年で一番きれいな涙を流したかもしれません(笑)。無粋なセリフやお涙頂戴ではなく、踊りだけでその孤独と和解を表現する、とてつもない感動シーン。素晴らしかった!エンターテインメントとはかくありき、真髄を見せてもらいました。

「良い魔女」と「悪い魔女」という概念の再構築。その外伝としての深みが、人種の対比(白人・黒人、そして黒幕のアジア人)によって重層的に描かれています。あらゆる人種が存在する世界で、唯一「緑の肌」を持つ者だけが排斥される構造。そして言葉を奪われる動物たちのメタファー。深読みしようと思えばいくらでもできる厚みがありつつ、圧倒的な音楽と映像だけで全編を通して感動させてくれます。老若男女、映画好きもあまり見ない人も、これだけの幅広い層にこの深度での感動を与えられる、相当に稀有な作品です。

ミュージカルという形式が暴く「同調圧力」のメタファー

特に関心したのは、「ミュージカルという様式」とテーマの驚異的な親和性です。 「悪い魔女」を糾弾するシーンにおいて、一人が踊り出せばモブ全員が無条件に踊らなければならないというミュージカル特有の強制力が、恐ろしいほどの説得力を持ちます。

主役が声を上げれば、全員がその同調圧力に屈して同じ主張を繰り返す。これは現代のSNSで、一斉に同じ方向へ突き進む群衆心理の構造そのものです。「一人が踊れば全員が踊らざるを得ない」というミュージカルのシステムが、これほど物語の文脈と融和するとは。まさに、この形式でしか成し得ない表現です。

そしてそのミュージカル部分の同調を、こちらに伝えるために必要な圧倒的な説得力として必要なのが生もの感です。CG飽和状態の現在で、全てアナログセットと演者の生歌に徹底した作りは、ミュージカルが持つライブ感と生もの感を完全に表現できてました。美しい色彩も含め、全カットどこを切り抜いても美しい絵画になるレベルでした。

多層的なキャラクター造形

エルファヴァを単なる「差別される被害者」というステレオタイプに押し込めない点も素晴らしい。彼女の中にもまた、他者への決めつけや偏見が潜んでいる。
誰の中にも、エルファヴァのような孤独と、グリンダのような渇望の両方が存在するのだという深い描写に唸らされました。

彼女が箒を構える際、侍の居合切りのようなキメを見せる演出。文句なしにかっこいい!

また、グリンダが発する「あなたの部屋を用意しておいたわ」というセリフに象徴される、エルファヴァの領域への無自覚な侵害。
コミカルな場面ではありますが、この『ウィキッド』が成立した背景にある2000年代初頭の米国の独善的な覇権主義を象徴しているようにも見えます。イラク戦争にも現れる、「世界の警察」という自意識に疑問を抱き始めた時代の空気感。グリンダというキャラクター設計は、そうした政治的文脈からも非常に興味深いものでした。

2025年、最高に重力に逆らった物語。

本作は単なる人気演目の映画化という枠を遥かに超え、現時点において2025年の映画シーンにおけるベスト級の輝きを放つ傑作でした。

エルファヴァの咆哮と飛翔に、僕もまた色々なしがらみから重力に逆らって舞い上がるような高揚感に包まれました。でもそれは決して楽天的な自由への飛行ではなく、待ち受ける暗雲と彼女の運命に心が身構えます。

これほどの密度と熱量、そして時代を射抜く視点。映画館という場所で、この瞬間に立ち会えた幸せを噛み締めています。第二部の公開が楽しみすぎる‼

最高の時間を、本当にありがとうございました‼


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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