【兄を持ち運べるサイズに】
- 鑑賞日 2025/11/30
- 公開年 2025
- 監督 中野量太
- 脚本 中野量太
- キャスト 柴咲コウ, オダギリジョー, 満島ひかり, 青山姫乃, 味元耀大, 斉藤陽一郎
- あらすじ 作家である主人公・理子のもとに、何年も会っていない、マイペースで自分勝手な兄が死んだという知らせが警察から入る。「早く、兄を持ち運べるサイズにしてしまおう」と理子は東北へ向かう。兄が住んでいたゴミ屋敷と化したアパートを片づけるため、理子は兄の元妻・加奈子やその娘・満里奈と再会する。遺された家族たちは、兄の残した痕跡と、それぞれの家族の形を見つめ直すことになる。
- ジャンル 日本映画 ドラマ ヒューマン
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り ◎
感想
中野監督の過去作「茶を沸かすほどの熱い愛」が素晴らしかったので今作も期待して映画館に赴きました。特に僕にも兄がいるので(ちょっと今作の主人公寄りの(笑))色々と感情移入いたしました。
今回もテーマは家族。上記作品もそうですが、この監督はステレオタイプな家族愛は描きません。
人間は二面性を持ち、善悪は白黒ではなくグラデーションであり、聖人でもあり悪人でもあるという事、作品を作る上で最も難しい領域を描いております。
誰だって勧善懲悪を作る方が簡単でいいですよね。
この兄は、まぁ~クズ人間です。
・面倒を見てくれた母が病気となるやさっさと逃げる
・葬式で香典をたかる
・ことあるごとに金をせびってくる
初めは「もしかしたら、理子ちゃんには、あの人の知らないところがあるのかな」とかばっていた元妻も、
・親権を預けていた息子の下着が小さいまま
・納骨時、箸の持ち方もままならない
そんな子供の状態に「嘘つき野郎!」とブチ切れます。
そんな兄の欠点を、前半これでもかと描写される訳ですから、後半どれだけ「実は良い所もあるんだよ」という描写があったとしても「そんな所見せられても、今さら絶対許せない!」となった人が多いみたいですね。
なるほど、気持ちはわかります。ただ、僕はその様には思いませんでした。
これは観る側の人間関係が、感想にかなり左右するように思います。
幼少期から今日にいたるまで、僕が関わってきた様々な人たちは聖人ばかりではありませんでした。
アルバイトしていたパチンコ屋の店長は、毎週夫婦でギャンブルに散財していました。
父の友人の陶芸家は、超が付く頑固頭で、会うたびに説教してくるし全てを否定してくる人でした。
メンズパブでアルバイトしていた時のゲイのマスターは、裏で色々怖い人とも付き合いのある人でした。
傍から見ると彼らはこの映画の兄の様に、褒められた生き方ではありません。
ただ…
パチンコ屋の店長はことあるごとに気にかけてくれ、年末年始一人じゃ寂しいやろう、とご家族の年越しに呼んでくれました。
頑固陶芸家の説教に触発され、自転車九州一周旅行を敢行できました。
メンズパブのマスタ―には夜の世界の厳しさ、危うさ、生き様を沢山教えて貰いました。
昼の世界と夜の世界、正規と非正規、サラリーとクリエイター、日本と外国と、様々な領域で生活してきたおかげで「人の善悪は白黒ではなくグラデーション」という価値観が骨身に染みているのだと思います。
ただ、だからと言って人の黒の部分を容認している訳ではありません。
許してはいけない一線ももちろんあります。人によってはそのラインがそれぞれなので、この映画を観て兄が許せない人は、彼がその一線を越えたのでしょう。
特にSNSが浸透してからの世界はホワイト化社会。どれだけ日々清廉潔白に生きていたとしても、一つのミスで総叩きにあってしまう時代です。人は白と黒とに選り分けられ、グラデーションであってはいけないのです。
正直僕も、登場人物が兄を許していく過程が「まぁ、とはいえ結構キレイごとだよね」と感じておりました。大分臭くてお涙頂戴なシーンもございます。そのまま終われば70点位の感想だったでしょう。
でも元妻である加奈子が理子に対して最後に放った一言で、この映画が僕の中で最高のものに昇華しました。それは…
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「理子さん、あの人お金なくても幸せだったんだな、って思ってるでしょう?
それはお金がある人の勝手な妄想だよ。私今まで生きてきて、お金が無くて幸せだった人を見たことがない。だから私は働くよ!たっっくさん働いて、子供達を幸せにするんだ!」
彼女のこの言葉を聞いて、劇場の僕は心の中で拍手喝采!
死んだからって本人の罪が消える訳ではありません。その罪も、優しかったことも、両方抱えて残された人は生きて行くのです。スッキリと「あの世で幸せにね」だなんてキレイごとでなく、モヤモヤしながら、時には憎み、時には許し、「あ~~~~!もうっっ!」と割り切れない気持ちで。
人間ってそんなもんだよね、と描いてくれた制作陣の皆様に感謝です。
良き映画でした、今度兄と呑みに行こう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さんの感想も、ぜひお聞かせください!


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