【映画レビュー】「愛はステロイド」あらゆる抑圧を筋肉と暴力でぶっ壊す!

映画

【愛はステロイド】

  • 鑑賞日 2025/08/30
  • 公開年 2025
  • 監督 ローズ・グラス
  • 脚本 ローズ・グラス、ヴェロニカ・トフィウスカ
  • キャスト クリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン
  • あらすじ 孤独なジムのマネージャーと、ボディビルダーの女性が出会い恋に落ちるが、裏社会に通じたマネージャーの父親の存在によって、二人の愛は危険な犯罪に巻き込まれていく。
  • ジャンル アメリカ映画 
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り ◎

感想

主演女優二人を映す監督の画角一つ一つが、まるで彫刻品のようにソリッドで美しい! そしてそれに負けじと、お二方の演技もなんとまぁ、ハイレベルで魅せる魅せる!お話ももちろん良いけれど、全編「俳優主体」でこんなに楽しめる映画は久しぶりです。超痺れました‼

理屈を黙らせる「ルック」の強さ

本作には、貧困、格差、ジェンダー、毒親など、社会的テーマがこれでもかというくらい含まれています。 しかし、それらを考察するために脳のリソースを割くのが勿体ないと思うほど、とにかく主演の二人──クリステン・スチュワートとケイティ・オブライアンをずっと見ていたい。

労力の全てを「視覚」に割り振りたいほど、二人のルックが強烈です。 それは単に見た目が格好良いというだけでなく、立ち振る舞い、目線の動き、汗と筋肉、演技の模様がとてつもなく魅力的で惹きつけられる。 そこに元々俳優二人が持っているポテンシャルを、ローズ・グラス監督の演出と画角がさらにブーストさせるのですからたまりません。

1989年という「舞台装置」

時代背景が1989年というのも最高でした!現代が舞台でしたら、あらゆるノイズが邪魔をして今回の様な没入感は得られなかったと思います。

スマホのない不便さ、当時の車や家電のデザイン、粗野な習慣、街並み。 この時代特有の道徳観やモラルの緩さが、二人の生き様に気怠さとロマンを与えています。 80年代あるあるの原色バチバチのネオンカラーが、荒野のどぎつい夜空と相性抜群なんですよね。特に赤の使い方がすごく好きです!

抑圧を「注入」でぶっ壊す

マジョリティとマイノリティ、男女恋愛と同性愛、拳と銃、筋肉と脂肪、それらあらゆる抑圧を、筋肉とステロイドでねじ伏せる。社会に蔓延るそれらの弾圧を、人工的な力の結晶(ステロイド)でぶっ壊す! 愛のために、その先身体がボロボロになろうとも構わない。その破滅的な疾走感が痛快で痛快で最高なのです。

もちろんその様な力で全てを解決するような単純な構造ではありませんし、しっかりとその裏にある閉塞感や孤独感も描かれております。下記にそれが続くのですが、

全員が「愛」に狂っている

そう、登場人物たちは皆、それぞれの愛や執着に狂っています。

・犯罪組織の長たる父親に怯えながらもその愛に応える娘。

・DV夫に支配されながらもその歪んだ共依存から逃れられない妻。

・家族や組織を支配することこそが愛だと信じる狂気の家父長制。

・だらしない身体で自身を律することが出来ないからこそ、ストイックな相手をストーキングしてしまう女の子。

傍から見たらとても健全な関係性とは思えませんが、当の本人たちにとってその愛は大正義です。「不健康(ステロイド)」で「健康(肉体美)」を手に入れようとする矛盾も含め、全員が何かに突き動かされている。 つまりは、「愛に正解なんてない」という一貫したこの映画のテーマなのでしょう。

ジャンルなんて関係ない

賛否両論のラストは個人的には拍手喝采でした。それはこの映画自体を、ホラーなのか、スリラーか、コメディか、ロマンスか、あるいは人間ドラマか、と決めつける事が当たり前になっている僕らに、「特定のステレオタイプなジャンルに、勝手に当てはめてんじゃねーよ!」という監督のメッセージに見えたからです。

つまりはその姿勢こそが、マイノリティに生きる人々が型にはめられ、世間の偏見で拒絶される事とイコールなのではないか、と。なので、あのラストがただの「トンデモ」で終わらず、そのメタファーとして、とてつもない解放感として、鑑賞後もずっと心に残ったのでしょう。

汚いものが沢山出てきますし、性差のトラウマを描く場面多々ありますので、気軽にはオススメ出来ないのですが、個人的には2025年TOP5に入る傑作でした!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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