【映画レビュー】「九龍ジェネリックロマンス」──ビードロのような白昼夢。

映画

【九龍ジェネリックロマンス】

  • 鑑賞日 2025/09/01
  • 公開年 2025
  • 監督 池田千尋
  • 脚本 和田清人、池田千尋
  • キャスト 吉岡里帆、水上恒司、竜星涼、栁俊太郎
  • あらすじ 近未来の九龍城砦にある不動産会社で働くOL・鯨井令子(吉岡里帆)は、先輩社員の工藤発(水上恒司)にひそかに思いを寄せていました。しかし、ある日、令子は自分と瓜二つの女性が工藤と写っている写真を発見し、自分が過去の記憶を失っていることに気づきます。九龍の街に隠された謎と、もう一人の自分の正体を追ううち、令子は工藤が抱える切ない過去を知ることになります。
  • ジャンル 日本映画 ミステリー ロマンス
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り ◎

感想

稀に、泡沫の白昼夢のような世界へ連れていってくれる作品があります。 小説で言えば恒川光太郎、音楽ならCocco、ゲームならICOのような…

映画「九龍ジェネリックロマンス」は、まさにそんな一作。それは淡くて切ない、まるでビードロのような映画でございました。

「場所」が全勝ち‼

正直に言ってしまうと今作では、物語の整合性だとか、SF設定の是非だとか、俳優さんの演技論だとか、そういった理屈は頭の隅に吹っ飛びました。

すべてはロケ地!この「九龍」という街並みに一目惚れし、上映時間中、ただただその景色に恋をしていたのです。

予算の少ない邦画SFにありがちな、安っぽいセットやCGで作られた映画だったら、全くもって僕には刺さらなかったでしょう。その舞台で作られる近未来SFは、どれだけ脚本が優れていようと、絵空事の域を出ません。 この映画の核は、タイトル通り「九龍城砦」という場所そのものなのです。

そこを十二分に理解している監督の手腕は流石です。 ほぼ全編台湾ロケを敢行した結果、あのアジア特有のうだるような湿気、建物の持つ退廃的な美しさ、雑多な生活の匂いが、見事にスクリーンに焼き付けられていました。

記憶にないはずの「原風景」

先日観た『トワイライト・ウォリアーズ』でも陥った感情なのですが……なんなのでしょう、この胸を締め付けるような切なさは。

行ったこともないし、住んだこともない。その時代に詳しいわけでもない。 なのに、まるで前世の自分が九龍で青春を謳歌していたかのように、あの景色が琴線に触れるのです。これは鯨井と同じく、僕の記憶をジェネリックテラに奪われたに違いない!いや、もう、それ位あの世界に住む人々が懐かしく、空気に電線に壁に涙してしまいました。

昭和レトロの懐かしさとも違うし(逆にALWAYSなどの映画に全く郷愁は湧かない)、幼少期そのような作品に強烈に傾倒した記憶もありません(攻殻機動隊くらい?)。ほんと、不思議な感覚です。VR機器で一日中この世界に浸りたいですもん、住みたくはないけど…(笑)

「汗と油」か、「泡と夢」か

同じ九龍を描いていても、『トワイライト~』が雑多な喧騒や、汗と油の染みついた「熱気」だとすれば、本作は白昼夢の泡の中にいるような「浮遊感」です。

幼少期に見上げた入道雲のような、あるいは廃墟となった軍艦島に感じるような、二度と戻れない場所への憧れ。 それは懐かしさという言葉だけでは片付けられない、強烈な既視感であり、望郷の念であり、サウダージにも似た哀愁。

終わらない夏に展開する恋模様と、音もなく崩れていく世界。 久しぶりに、ストーリーを追うのではなく「世界観に浸る」という贅沢な時間を過ごしました。

鑑賞環境についての警告

最後に一つだけ…これだけ大絶賛している舞台設定ですが、僕の観た環境としては、

・上映時間フルで全集中できる映画館の暗闇

・視界いっぱいに九龍が広がる巨大スクリーン

・人の少ないレイトショーの静寂

・鑑賞後、外に出た時の爽快な夜空と9月の心地良い風。

というパーフェクトに世界観に浸れる状況でした。もし、スマホを片手に家のテレビで観ていたら、あるいは生活音が聞こえる環境だったら、この繊細なガラス細工のような世界観には入り込めず、評価はガラリと変わっていたと思います。

その点、ご注意くださいましm(__)m


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さんの感想も、ぜひお聞かせください!

コメント