【映画レビュー】「この夏の星を見る」/隔離された暗闇の中で、僕たちは一等星を探す

映画

【この夏の星を見る】

  • 鑑賞日 2025/07/09
  • 公開年 2025
  • 監督 山元環
  • 脚本 森野マッシュ
  • キャスト 桜田ひより、水沢林太郎、黒川想矢、中野有紗
  • あらすじ 直木賞作家・辻村深月の同名小説を映画化した作品です。2020年、コロナ禍で登校が制限される中、高校の天文部員たちが「オンラインスターキャッチコンテスト」を開催し、全国の生徒たちと交流を深めていく青春物語です。
  • ジャンル 日本映画 ドラマ 青春
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)

感想

コロナが学校生活を奪っても、 つくるんだ青春を。 ソーシャルディスタンスでも、繋がるぞオンラインで。 触れらなくても、隔離されても、真っ暗闇でも、探すんだ一等星を。

なんて尊く美しい映画なのでしょう。観終えた後は、もう大喝采!山元環監督、これは今後の動向を絶対にチェックしておくべき才能ですよ。

もし、当時の学生さんがこの映画を観て、「コロナのせいで青春を失った、損をした」というやるせない感情を越えて、「あの頃の自分たちも、あれはあれで間違いなく青春だったんだ」と少しでも思ってくれたら……。一観客に過ぎない僕ですが、そう願わずにはいられないほど、胸に迫るものがありました。

マスクという制約を「目力」の輝きに変えて

今作の制作的なハンデとして、上映時間のかなりの部分で登場人物たちがマスクを着用しているという点があります。表情が半分隠れてしまうのは映画として致命的になりかねないのですが、そこを逆手にとっているのが実にお見事!

とにかく強力な「目力」を持つ俳優さんたちが起用されていて、視線だけで感情を物語る素晴らしいルックに仕上がっていました。

そして、僕の中で「タイトルバックが完璧シリーズ」への追加が確定したあの演出!望遠鏡を正面から捉えた構図で、夜空を走る人工衛星を横からスライドするように追いかけ、望遠鏡の丸いフレームの中にタイトルが「バン!」と現れる……。あの瞬間、初っ端から鳥肌が立ちました。

都会の闇と田舎の星、そして「興味のない少年」の変化

10代という、人生で最もキラキラと光る瞬間。それと、夜空いっぱいに広がる星々の相性はあまりにも良すぎます。彼らの瑞々しい青春と美しい星々を見ていると、終始切なさが込み上げてきました。

劇中では、人との距離が密な都会では星が見えにくく、人が少ない田舎では星が一杯に瞬いているという対比が描かれます。ただ、今作が誠実なのは、田舎の美しさだけを強調するのではなく、田舎特有の閉鎖性やコロナ差別の生々しい描写もしっかりと盛り込んでいる点です。

また、青春ものの王道として「興味のなかった人間が徐々にハマっていく姿」を丁寧に描いているのも素晴らしい。かつての『スラムダンク』の桜木花道のように、コロナでサッカーができなくなり、天体なんて全く興味のなかった少年が、徐々に「スターリンクコンテスト」に傾倒していく様子は、実に爽やかで愛おしく、微笑ましいものでした。

以前の作品『フロントライン』でも感じましたが、あの頃、僕たちはあんな差別や分断を経験していたのだと、改めて思い出させてくれたのも良かったです。決して忘れてはいけない記憶。

大人たちの温かい眼差しと、カタルシス溢れるラスト

星座をいち早く発見するという一見地味なコンテストですが、分断されたコロナ禍の中で、全国の学生たちをオンラインで繋ぐというプロットは完璧です。いくつもの壁や差別を若いエネルギーで乗り越え、クライマックスへと集約していくカタルシスはとてつもないものがありました。その鮮やかで爽やかなラストには、もう涙、涙です。

この映画の良さは、無理に泣かせようとしたり、コロナの恐怖を煽ったりしない、絶妙なバランスにあります。大人の描き方も本当に良かった。物語を動かすための都合のいい「悪役」になんてさせないんです。

岡部たかしさん演じる綿引先生をはじめ、先生たちだって一生懸命に子供たちの青春を応援し、協力してくれる。誰も子供たちを閉じ込めたくてしているわけではなく、二度と来ないこの瞬間を謳歌してほしいと願っている。その想いがスクリーンから溢れていて、出てくる大人たち全員が大好きになりました。

鑑賞後の夜空が変わって見える

夜のシーンが多いため撮影は非常に困難だったはずですが、山元監督が映し出すショットはどれも息を呑むほど綺麗。恋愛要素を「ほのかなレベル」に抑えたのも、個人的には大正解だったと思います。あくまで夢を追いかけ、やりたいことにひた走る若者のエネルギーこそが、おじさんの心を激しく揺さぶるのです。

鑑賞後、レイトショーを終えて劇場を出た時に見上げた夜空の美しさは忘れられません。家まで帰る道のりがこれほど幸せだったことは珍しい。2025年のベスト級に入る名作です!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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