【映画レビュー】「夏目アラタの結婚」「最恐の歯並び」に惹かれる、狂気の心理戦と純愛のパズル。

映画

【夏目アラタの結婚】

  • 鑑賞日 2025/11/12
  • 公開年 2024
  • 監督 堤幸彦
  • 脚本 徳永友一
  • キャスト 柳楽優弥、黒島結菜、中川大志、丸山礼、立川志らく、福士誠治、今野浩喜、平岡祐太、藤間爽子、佐藤二朗、市村正親
  • あらすじ 元ヤンで児童相談所職員の夏目アラタは、担当児童の依頼で、連続バラバラ殺人事件の犯人で死刑囚の品川真珠と面会する。アラタは行方不明の遺体(首)の場所を聞き出すため、彼女の関心を引こうと咄嗟に獄中結婚を申し込む。アラタと、予測不能な言動で彼を翻弄する真珠との、生死を揺るがす「真相ゲーム」が始まる。
  • ジャンル 日本映画 ミステリー サスペンス 
  • 鑑賞媒体 アマゾンプライムビデオ
  • お気に入り ◎

感想

ガタガタの歯並びとは対照的に、サクサクとパズルのピースが綺麗にハマっていくのが心地よい秀作でした。

柳楽優弥さんと黒島結菜さんの力

主演の柳楽優弥さんは、本当にいい役者さんですね。ずっと見ていても飽きない。 かつて『誰も知らない』でネグレクトされる子供を演じていた彼が、大人になって「児童相談所職員」として子供たちを守る側に立っている……。この配役の妙には、ファンとして「乙だな」とニヤリとしてしまいました。

そして、この映画の勝敗は完全に彼女次第、死刑囚・品川真珠を演じた黒島結菜さん。ガタガタの汚い歯が強烈なインパクトを放ちますが、不思議なことに、被害者たちと同様に僕も初っ端から彼女がとても魅力的に見えてしまいました。

頭の中で「こいつは危険だ」と警鐘が鳴り響いているのに、その瞳に吸い込まれ、なぜか惹きつけられてしまう。危機感と同じ深度で「自分だけに心を開いてくれている」「自分だけがこの子を助けることができる」という、盛大に勘違いした保護欲と正義感を呼び起こしてしまう。こういうダッサい思い込みをして痛い目を見た、若かりし頃の失恋を思い出して、恥ずかしさに穴に入りたい気分でした(泣)

そういう黒歴史を思い出させてくれるまでの熱演、よくぞこの難役を演じ切られたものです。

漫画的「とんでも設定」を「リアル」へ昇華させる技術

原作は乃木坂太郎氏の人気漫画。設定だけ見ればかなり「とんでも寄り」なのですが、それを高価な絵作りと役者さんたちの熱演で、ゴリっとリアルな空気感へ転換させています。

一歩間違えればチープなB級映画になりそうな後半の展開も、手に汗握るスリラーとして成立させている塩梅は絶妙です。

また、アラタの動機も素晴らしい。 通常、この手の物語では「功名心に駆られた記者」が近づくのが定石ですが、アラタはあくまで、自分の名前を勝手に使って死刑囚と文通していた「少年のケツを拭くため」に動く。 利己的ではなく、他者のために自分を投げ出す彼のスタンスが、物語に一本、筋の通った清潔感を与えています。

緻密な伏線回収:歯並びが意味する「ある器官」

犯罪者と対面で演技合戦をするスタイルは、昨年の映画『爆弾』などでも見応えがありましたが、本作もまさに役者さんの「本領発揮」という感じでゾクゾクします。 丸山礼さんが見せた、心を折られるシークエンスの演技も非常に印象的でした。あんなこと言われたら僕も泣いちゃう…。

物語の構成も、さすが漫画原作なだけあって小技が効いています。 なぜ彼女の歯はガタガタなのか? それによって得られた「ある鋭敏な器官」とは? そして、その器官がアラタとの物語をどう動かしていくのか。

バラバラだった伏線や設定の妙が、起承転結を通してパズルのように組み上がっていく快感。個人的に、あのラストの終わり方はとても好みでした。

総評:日本漫画の懐の深さを再確認

死刑囚との心理戦でありながら、その根底に流れるのは、孤独な魂同士が触れ合う純愛の物語。獄中結婚という題材はさもありなんですが、そこからあの展開をさせるのか、と他ではあまり見た事のない流れに、改めて日本漫画の懐の深さを再認識しました。

役者さんの底力を堪能できるソリッドな秀作、面白かったです!


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