【映画レビュー】「悪い夏」/重厚な社会派かと思いきや、ラストの熱量にぶん殴られる快作

映画

【悪い夏】

  • 鑑賞日 2025/09/12
  • 公開年 2025
  • 監督 城定秀夫
  • 脚本 向井康介
  • キャスト 北村匠海, 河合優実, 伊藤万理華, 毎熊克哉,窪田正孝
  • あらすじ 真面目な公務員である佐々木守が、同僚から生活保護受給者の女性への肉体関係強要疑惑について相談を受けたことをきっかけに、犯罪計画に巻き込まれ、破滅へと転落していくサスペンス。
  • ジャンル 日本映画 サスペンス ドラマ
  • 鑑賞媒体 アマゾンプライムビデオ
  • お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)

感想

生活保護という重い題材を扱いながら、ラストのドタバタ劇で「生」の逞しさを叩きつける映画『悪い夏』。北村匠海さんや窪田正孝さんの怪演、そして「汗」が象徴する貧困の描写など、エンタメと社会派が混ざり合う嫌~な夏映画でした。

社会の闇を「汗」で描く、湿度の高いリアリティ

生活保護という、今の日本が抱えるとんでもなく重い題材を扱った社会派映画かと思ったら、最後はドタバタ劇でぶん殴って大団円、という驚きの展開でした。これには思わず笑っちゃったけれど、不思議な満足感があります。

全体を通して、夏のえぐい暑さと湿気の描写が本当に見事でしたね。登場人物たちがみんなこれでもかと汗をかいていて、それがそのまま、その汗を鎮めることができない環境にいるという「貧困」の表現に繋がっている。観ているこちらまでじんわりと汗ばんできそうな、あの独特の空気感には引き込まれました。

特に印象的だったのが、公園のシーンです。水道も止められていて、公園の水を飲んでいる困窮した親子の後ろで、別の子供が水鉄砲で無邪気に遊んでいるという対比。自分にとっては当たり前の行動が、視点を変えるとこれほど残酷に見えるのかと、ハッとさせられる学びがありました。

堕ちた者たちが対峙する、切なすぎる現実

物語の核となるのは、真に生活保護を受けるべき人が遠慮して受けられず困窮し、その一方で受け取る必要のない図々しい人が享受しているという、いかんともしがたい現実です。

劇中、闇落ちしたもの同士が対峙するあの役所でのシークエンスは圧巻。本来は善人であったはずの二人が、あのような形で対面してしまう切なさ。困窮がここまで人を変えてしまうのかというやるせなさ。この場面こそが、この映画が一番伝えたかった部分なのかもしれません。

役者陣の怪演と、ギャップの魅力

役者さんたちも本当に素晴らしかったです。 まずは北村匠海さん。彼の「目」はやっぱりいいですね。愚か者の身分のような役どころもハマりますが、あの黒目の闇の深さというか、どこを見ているかわからない空虚な感じが、今回の役にめちゃくちゃ合っていました。

そして窪田正孝さんも、ヤクザ役がすっかり板についています。刺されてもパニックにならず冷静な感じや、「あ、止め止め」と深追いせずにアッサリ撤退するビジネスライクな立ち振る舞いは、たまらないものがあります。ドラマ『宙わたる教室』で見せた姿とのギャップがあまりに凄まじくて、改めて底知れない役者さんだなと感じました。

また、今の夏は昔と違って「命に関わる」災害。その容赦ない日差しと、次々に起こる事件の数々にもはや思考がストップしてしまう感覚を、木南晴夏さんが見事な表情で表していて凄かったです。

「ライフ・イズ・ア・コメディ」という微かな希望

ラストのドタバタ劇には一体どういった意図があるんだろうと考えてみたのですが、結局のところ「ライフ・イズ・ア・コメディ」ということなのかな、と感じました。あの結末のおかげで、終始重かった話が「なんだかんだでみんな逞しいじゃん」という、ある種の清涼感を与えてくれます。どんな地獄のような状況でも微かな希望はあるんだという示唆なのでしょう。

ただ、その所為で作品全体のバランスとしては、少しエンタメ寄りすぎたかなという印象も拭えません。ドスンと見終わったあとに現実に帰ってこれなくなるようなテイストではなく、エンタメとして綺麗にまとめられていました。

個人的には『ナイトフラワー』や『愚か者の身分』のような、最後までシリアスから逃げない重厚な作りの方が好みではありますが、社会の闇を描きつつもしっかりとエンタメに昇華させた、バランスの良い一作でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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