【罪人たち】
- 鑑賞日 2025/6/24
- 公開年 2025
- 監督 ライアン・クーグラー
- 脚本 ライアン・クーグラー
- キャスト マイケル・B・ジョーダン、ヘイリー・スタインフェルド、マイルズ・ケイトン、ジャック・オコンネル
- あらすじ 1930年代のアメリカ南部を舞台にしたサバイバルスリラー。信仰深い町で、双子の兄弟が一獲千金を狙ってダンスホールを開店しますが、オープン初日に奇妙な出来事が起こり、人知を超えた者たちの狂乱の夜が始まります。
- ジャンル アメリカ映画 スリラー ホラー
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)
感想
これほどまでに混沌としたプロットを完璧にまとめ上げ、莫大な予算を投じて映像化し、そして極東のちっぽけな僕の元によくぞ届けてくれました……。そんな感謝の気持ちで胸がいっぱい。いやいや、本当に最高でした!!2025年ベスト級です‼
極東まで届いた、混沌と情熱の叙事詩
本作は、移民と先住民のメタファーに次ぐメタファーで構成されています。黒人と白人、そして黄色人種。そこへ吸血鬼、教会、ブルース、アイリッシュといった要素が複雑に絡み合っていく。
物語の根底にあるのは、「『それ』は招き入れを許可しないと、侵略できない」というルールです。この一見シンプルな吸血鬼の理が、本作では恐ろしいほど深く、多面的な意味を持ってに迫ってきます。
音楽が紡ぐ「神」と「悪魔」の輪廻
一応ジャンルとしてはホラーに分類されるのかもしれませんが、実際に観て感じたのは、ホラー色は意外にも少なく、むしろ濃密な「音楽伝記映画」の手触りでした。前提知識があればあるほど、どこまでも深く潜っていける傑作です。
特筆すべきは、アフリカ系アメリカ人とアイルランド人、それぞれの音楽のルーツをメタファーとして使い、人種問題や移民の断絶を描き切っている点です。「許可がないとテリトリーに入れない」という吸血鬼のルールを、移民問題の根底にある「受け入れと拒絶」の構造に重ね合わせるなんて、よくぞこの設定を思いついたなと心から感心しました。
劇中では、吸血鬼を凌駕するほどの「悪」として、あの悪名高いKKKが絡んできます。彼らもまた、「自分たちのテリトリーを黒人から守るため」という理屈で動いている。しかし、そもそもその黒人たちを無理やり連れてきて強制労働させたのは自分たちではないか……という皮肉。
そして、その苦難の中で黒人たちが生み出した音楽が「ブルース」。冒頭で歌われるゴスペルが、押し付けられた宗教の中で神を讃える「祝いの歌」であるのに対し、ブルースはそれに反発するように生まれた「神に歯向かう音楽」。天才がそれを演奏すると悪魔を呼び寄せてしまうという、この逃れられないとてつもない輪廻の図式には、ゾクゾクするような恐ろしさを感じました。
圧巻の映像演出と、受け継がれる「反逆」の魂
演出面で特に鳥肌が立ったのは、演奏が始まると古今の様々な音楽家たちが混じり合って演奏を繰り広げる、あのワンカットシーンです。文句なしに格好良かった!
一方で、最も居場所を奪われた存在であるネイティブアメリカンが、土着の信仰をもって吸血鬼と対峙する描写には、その存在感の薄さゆえの悲哀が漂っていました。
主役の一人は吸血鬼に、もう一人は人間のまま。数十年後、現代では人間の方が依然としてブルースを力強く伝えています。対して吸血鬼の方は現代的なヒップホップの格好をしているのですが、それはそれで、魂はそのままに、形を変えて生き残っていることの暗喩なのでしょう。その二人が長い年月をかけて邂逅するシーンは、圧巻でした。
ブルース、そしてヒップホップ。形は違えど、どちらも「反逆の音楽」を胸に抱いて生きていくという、壮大なラストシーンには圧倒されました。残念ながら僕はあまり詳しくありませんが、ブラックミュージックに造詣が深ければ深いほど、本作の深淵に触れることができるのでしょう。
侵略ではなく「共生」の道を求めて
個人的な話を少しさせていただくと、僕の祖父母もかつて九州からアルゼンチンへと渡った移民でした。だからこそ、この「外から来た人間が許可を貰い、郷に従って共生していく」というテーマは他人事とは思えませんでした。
アルゼンチンでの日系住人の信頼の高さを見ていると、いかに祖父母の世代がその土地に溶け込むために血の滲むような努力をしたのか……そんなことも深く考えさせられました。
作中では、内側ではブルース、外側ではアイルランド民謡が歌われ、音楽バトルを通して「侵略のし合い」が描かれます。これは排斥主義が深刻化している今の時代において、非常に大きな意義を持つ描写だったと感じます。
テーマがあまりに深く幅広いため、一言でまとめることは到底できません。でも、まとまらないこと自体が、この作品の持つエネルギーの正体なのだと思います。本当に、凄まじいものを観てしまいました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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