【映画レビュー】「花まんま」/名演が光る一方で、どうしても感情移入できない「その結婚には反対だ!」の価値観。

映画

【花まんま】

  • 鑑賞日 2025/04/30
  • 公開年 2025
  • 監督 前田哲
  • 脚本 北敬太
  • キャスト 鈴木亮平、有村架純、鈴鹿央士、ファーストサマーウイカ
  • あらすじ 両親を早くに亡くし、大阪の下町で二人きりで暮らす兄の俊樹と、ある「秘密」を抱えた妹のフミ子の物語です。フミ子の結婚を機に、昔封印したはずの兄妹の秘密が明らかになっていきます。
  • ジャンル 日本映画 ドラマ
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り △(×、△、〇、◎の四段階)

感想

両親を亡くした兄妹の綺麗な物語で、おそらくほとんどの方が感動するであろう良作だと思います。そんな作品にケチをつけるのは、まるで逆張りをしているようで非常に恐縮ですが、どうしても自分の中で合わない部分がありました。

それは他の作品にも言えることですが、「親が成人した子供の恋愛に口を出す」という点です。

家父長制的な価値観への違和感

アジア圏の作品では、こうした描写がしばしば美談として語られますが、僕にはこの家父長制的な価値観がどうしても合いません。親が子供の結婚などに介入し、干渉すればするほど、それは心配の裏返しであり、愛情の一種であると解釈されます。ただ、アルゼンチンで育った僕にとって、その感覚はどうしても受け入れがたく感じてしまいます。特に日本では男親が娘に対してそれが顕著になりますよね。

僕の実父は妹が結婚する時に一切干渉しませんでしたし、義理の父も娘(妻)の結婚に一切口を出してきませんでした。そこには「成人した一人前の大人の人生を操作しようとするなんてことは、みっともない」という確固たる価値観があるからだと思います。言い換えれば、娘が決めたことを尊重し、一人の人間として対等に接しているということです。

映画でよく見かける「お父さんはその結婚には反対だ!」という場面に対して、僕はどうしても「何様だよ…」と感じてしまいます。娘をいつまでも自分の所有物のように束縛し、彼女の人生に介入しようとする姿は、子供離れができていないように見えてしまい、どうしても気持ちが冷めてしまうのです。

もちろん、親として子供のためを想い、心配で仕方なくて口を出してしまう気持ちは十分に理解できます。ですから実生活では何とも思いませんし、それは各家庭の自由でしょう。村社会で共同体を重視しなければ生きていけない土地柄だったりの大事な理由もあると思います。

しかし、フィクションである映画でそれを描かれ、「これが家族の愛だ」と提示されると、どうしても「浅い愛だな」と感じてしまいます。どれだけ心配で、どれだけ本当は干渉したくても、「あなたが決めたことなら、お父さんはそれを信じる」という自己犠牲の方が、ずっと深く大きな愛であり、一つ深いレイヤーのドラマツルギーだと僕は考えます。

兄の未熟さと現代的な視点

今作の主人公についても、言いたいことは分かります。早くに両親を亡くし、自分の青春を犠牲にしてまで育ててきた大事な妹への想いや、親から託された責任があるのでしょう。それだけでなく、入れ替わりという別の人生も内在しているといったあらゆる事象が、「俺が妹を守るんだ」という動機に繋がっているのだと推察します。

それでも、もし妹の意思を尊重することが真の愛であるならば、兄は自分の寂しさや未熟さから妹を束縛しようとしていることや、自分の望む道に無理やり進ませようとしていることについて、もっと自己開示をして欲しいと感じました。その葛藤を乗り越えた上で、妹の幸せを望むというラストにして欲しかったです。最終的に最後のスピーチを含め、それらすべてが「これが家族のあるべき形」という感動に繋げられている点に、僕は感情移入ができませんでした。

なぜこのように重箱の隅をつつくようなことを書くのかと言えば、この物語を昭和の時代に観ていれば、きっと素直に感動したからです。ですが令和の今、毒親という言葉はあまり好きではありませんが、親が子供の人生を束縛し、呪いの様に介入しすぎたり依存したりする事例は世の中に溢れています。知り合いの中にもその呪縛に苦しんでいる人がいる中で、このアジア的家父長制を全面に善として押し出した物語は、どうしてもノイズになってしまいます。

「お兄ちゃんは結婚には反対だ!」「相手の家族に会いに行くな!」といった場面は、たとえそれがコメディタッチであったとしてもゲンナリします。特に作中のフミ子の設定は29歳とのこと。30歳を間近にした立派な大人に対して、「妹だから」という属性一つで口出しをすることが、その人間性として到底共感できませんでした。それがいくら人情がウリとされている、下町の大阪が舞台だとしても、です。

素晴らしい要素があるからこそ

繰り返しになりますが、そうした設定自体が悪いわけではありません。未熟な兄を描く話はむしろ大好きです。ただ、その着地点が「家族のあるべき形」としての押し付けた感動ものになっているところが、僕には合わなかったという話です。これがもし、とことんダメなクズ兄貴として描かれ、それでも妹の幸せのために奔走するという物語であれば、もっと感動できたでしょう。

俳優陣については、大好きな鈴木亮平さんはもちろん、酒向芳さんの役作りも全編を通して本当に素晴らしかったです。これらの要素が有機的に絡み合い、クライマックスに向けて大きなうねりとなって、そこからあの「花まんま」が登場していたら、とんでもない鳥肌と衝撃に包まれて落涙したと思います。設定が素晴らしいだけに、非常に残念に感じる一本でした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さんの感想も、ぜひお聞かせください!

コメント