【ネバーアフターダーク】
- 鑑賞日 2026/06/08
- 公開年 2026
- 監督 デイブ・ボイル
- 脚本 デイブ・ボイル
- キャスト 穂志もえか、稲垣来泉、賀来賢人、吉岡睦雄、正名僕蔵、木村多江
- あらすじ 霊媒師一家に生まれた愛里と、ある事件により霊となった姉・美玖は、霊と交信できる力で全国の怪事件を解決してまわっていた。そんな姉妹のもとに、ある屋敷に現れる男の亡霊を祓ってほしいという依頼が舞い込む。亡霊を目撃した張本人の禎子は愛里の仕事に興味津々だが、息子の群治は霊の存在に懐疑的だった。屋敷で怪現象が次々と起こるなか、除霊の儀式を始めた愛里は、おぞましい姿の亡霊に遭遇する。亡霊は部屋の壁に隠された何かを必死に捜していた。やがて、屋敷の秘密と亡霊の正体、姉妹を縛る恐ろしい過去が明らかになっていく。
- ジャンル 日本映画 ホラー ミステリー
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り △(×、△、〇、◎の四段階)
感想
賀来賢人さんが映像制作スタジオを立ち上げ、海外の監督を起用して日本のホラーを世界へ輸出していくという、志の高いプロジェクト『ネバーアフターダーク』。新スタジオの一作目として絶対に失敗できないという商業的な視点においては最も説得力を感じるのですが、率直な感想としては、いくつかの部分で惜しさを覚える「△」の評価となってしまいました。
文化の描き方と脚本の体制
今作はアメリカ出身のデイヴ・ボイル監督が単独で監督と脚本を務めています。ジャパニーズホラーを世界に広めるという目的を考えると、それこそ『SHOGUN 将軍』で徹底的に日本の文化描写を譲らなかった真田広之さんのように、日本ホラーのテイストを守り抜く姿勢が脚本の段階から欲しかったなと感じています。
日本独自のあの「湿り気のある恐怖」を世界へ提示するためには、せめて脚本を日本人のクリエイターにするか、チームに迎え入れる必要があったのではないかなぁ。デイヴ監督自身、過去に『忍びの家』や『リノから来た男』といった地味ながら評価の高いミステリーや人間ドラマを得意としており、純粋な商業ホラーやアトラクション型の爆音ホラーの経歴が見当たらないだけに、今回のテイストの変化には驚かされました。
盛り込まれた要素とカタルシスの行方
設定自体は非常に魅力的で、幽霊となった姉と一緒に怪異へと挑んでいく霊媒師という構図にはとてもワクワクさせられました。それこそ、映画『来る』を観たときのような、じわじわと迫り来るゾクゾク感や、最後に押し寄せる圧倒的な満足感を期待しておりました。
ですが、いざ蓋を開けてみると、今作は西洋ホラーの雰囲気をベースにしながら、姉妹のスーパーパワーものにしたいのか、人間の狂気を描くサイコスリラーにしたいのか、あるいは純粋な心霊ホラーにしたいのか、それとも人間の切なさを描くドラマにしたいのか、少し要素がとっちらかってしまっている印象を受けてしまったのです。それぞれの要素が中途半端に混ざり合ってしまったため、物語がひとつの大きな波となって押し寄せるような、映画特有のカタルシスを得るのが少し難しかったように感じます。
姉妹の描写に感じたもったいなさ
さらに、異能力という設定が物語の中で突き抜けていればまた違った面白さがあったと思うのですが、実際の描写としては、お姉ちゃんは鏡越しに会話を交わすだけ(途中問題解決とは全く関係ない箇所で、謎の超パワーを発揮させますが)妹の方も霊の世界に入ることはできるものの、基本的にはただ逃げ回ったり対話をしたりするだけに留まります。
そのため、せっかくの「幽霊の姉」という特殊な立ち位置が役割として薄まってしまっており、なんだったらお姉ちゃんいらなくね?という悲しい状態になっているのが、なんとももったいなく感じられます。
また、この姉妹がどのような過去を経て今に至るのかという、エモーショナルな前日譚がしっかりと描かれていれば、もっと物語にのめり込むことができたはずです。劇中ではそれがセリフだけで説明されるので、彼女たちの背景に共感し、キャラクターを深く好きになる前に、お話がサラリと終わってしまいました。続編を想定した作りなのかな。
アメリカ仕様の恐怖演出
アメリカ人監督を起用した影響は、怖さのベクトルが世界仕様に向けられている部分が大いに現れていました。怖さのレベル自体は結構上位だと思いますが、その全てはジャンプスケア特化へと完全に割り切った超爆音の劇伴によるものです。
劇場での音量設定は、制作側である程度ミックスの基準があるとはいえ、今回観たものはかなり許容量ギリギリの耳が痛くなるほどの大音量でした。それは個人の感覚なので仕方ないとして、演出として、少し恥ずかしくなるくらいわかりやすい恐怖音楽を、わかりやすく恐怖の場所で鳴らす、という超クラシカルな手法なのです。これくらい割り切るなら逆に気持ちよさはあるのですが、日本のじわじわと臓腑の底から感じる恐ろしさではなく、シンプルにでかい音とジャンプスケアで、自分の恐怖心とは関係なく、反射的にビクッとさせる驚かせ方で全編が作られております。
向こうの市場では、こうしたお化け屋敷的なジェットコースター型ホラーが確実に興行収入を叩き出すビジネスモデルなのだとは思いますが、個人的にはあまり好まないアンフェアな驚かせ方です。
宗教観による復讐劇の違い
もう一つ海外の監督の大きな影響を感じたのは、復讐に対する描写です。かねてよりハリウッド映画を観ていてストレスに感じていたのが、被害者に酷い拷問をした凶悪犯罪者が、最後にあっさり銃弾一発で死んだり、崖から落ちて死んだりする展開です。あれだけ酷いことをした犯人が、なぜそんなに簡単に死んでしまうのかと、いつも物足りなさを覚えてしまいます。
そこにはキリスト教圏特有の価値観が深く関係しているように推察します。西洋のエンターテインメントにおいて、残虐な凶悪犯罪者はもはや人間ではなく、討伐すべき「モンスター」と同義として扱われます。そのため、生かしてじわじわと苦痛を与えることよりも、社会や世界からとにかく「速やかに排除・シャットダウンする」ことこそが正義の執行になるのではないでしょうか。
また、聖書にある「復讐するは我にあり」という思想の通り、人間が過度な私刑や拷問を行うことは、行う側もまた悪に染まってしまうという警戒感があるため、一瞬で片付けるシステムが発動しやすいのです。
これが例えばイスラム教圏であれば、古代法に由来する「目には目を、歯には歯を」という同態復讐法の思想があり、被害者が受けた物理的な損害とまったく同じ量・同じ行為の報復を、法と秩序のもとで厳密に執行するというルールが存在します。
そして僕たちに馴染み深い東アジア(仏教・儒教圏)では、自分が犯した悪行が巡り巡ってそっくりそのまま自分自身の絶望や恐怖として返ってくる「因果応報」や「業(カルマ)」の思想が根底にあります。だからこそ、映画『親切なクムジャさん』や『告白』のように、犯人には被害者の味わった苦しみの何倍も味わって死んで欲しい、と映画にも強く望んでしまうのです。
今作でも、あれだけ被害者たちの歯を抜きまくって苦しめた犯人が、最後の死に方はアッサリ首を絞められる形です。(厳密に言うとその後に主人公に斧で殺されますが、同様に痛みは一瞬でしょう)。未来の幽霊の自分に殺されるという発想自体は斬新であるものの、なぜそこでただの絞殺を選んだのか。
アジア的な因果応報の感覚から言えば、自分の幽霊が自分の歯を一本一本抜く、というのがセオリーだと思うし、全て歯を抜かれたあと、幽霊の自分が、かつて己が被害者の前でしていたような悦に入った表情を浮かべていたりしたら、これ以上ない強烈なカタルシスが得られたように思います。
賀来賢人さんが自身でベンチで歯を抜くシーンはしっかりと流せていたので、レーティングの問題というよりは、やはりアメリカ人監督による「モンスターを速やかに排除する」というキリスト教圏の価値観のシステムがそのまま発動してしまった結果なのかなと推察しました。あくまでターゲティングは西側諸国であり、日本人観客ではないのでしょう。
配役の機能と構成のバランス
さらに細かい部分ですが、脚本ありきで舞台装置的に役者さんが配役された印象が残ってしまいました。賀来賢人さんも木村多江さんも素晴らしい役者さんですが、最終的には犯人に殺されてしまう役割です。ただ、それによって主人公が助かるという明確な役割があるわけでもなく、犯人に歯を抜かれるポジションでもなく、ただ、死ぬ。最終的に「この役は必要だったのかな?」という印象になってしまったのが残念です。
てっきりあの二人が死後の世界で犯人に復讐するとか、主人公のピンチを助けるといった役割があるのだと思っておりましたが、結果としては本当に無為に退場します。これは中盤のショック演出というわけではなく、終盤のクライマックスで命を落とすため、なおさら不可解に感じてしまいました。
登場人物が多数いる山荘ミステリーなどで中だるみ解消として、無為に死ぬキャラがいるのは分かりますが、実質3人しかいない登場人物の構成において、クライマックスでこの処理にしたのは違和感が残りました。それならいっそ、始めから姉妹だけの物語に特化して、彼女たちのパーソナリティに時間を割いてくれた方が、作品への没入度は確実に上がった様な気がします。
これからのスタジオに期待すること
世界進出を掲げて新しいエンターテインメントを生み出そうとする、その熱いチャレンジ精神には本当に頭が下がります。だからこそ、今後は描きたいジャンルの焦点をグッと絞り込んだり、キャラクターの背景をよりエモーショナルに掘り下げたりすることで、さらに化けるスタジオになるのではないかと期待が膨らみます。
Jホラーのポテンシャルを世界に証明するためにも、これからの作品づくりを応援していきたいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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