【マスターズ・オブ・ユニバース】
- 鑑賞日 2026/06/06
- 公開年 2026
- 監督 トラビス・ナイト
- 脚本 クリス・バトラー、アーロン・ニー、アダム・ニー、デイブ・キャラハム
- キャスト コラス・ガリツィン、カミラ・メンデス、アリソン・ブリー、ジャレッド・レト、イドリス・エルバ、ドルフ・ラングレン
- あらすじ 惑星エターニアの王子アダムは、幼少期に起きた戦乱から身を守るため地球へと送られ、正体を隠して成長します。15年後、偶然手にした伝説の剣「パワーソード」に導かれ故郷へ戻った彼は、エターニアが宿敵スケルターによって支配されている現実を知ります。エターニアとその人々を救うため、アダムは戦士ヒーマンとして悪の軍団との死闘に身を投じていきます。
- ジャンル アメリカ映画 コメディ ファンタジー アクション
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り △(×、△、〇、◎の四段階)
感想
予告を見る限り本来であれば鑑賞していないであろうジャンルでしたが、世間での前評判がものすごく高く、多くの評論家の人たちが「今年ベストだ!」と大興奮していたので、めちゃくちゃ期待して『マスター・オブ・ユニバース』を観てきました。
結論から言ってしまうと、その高い下馬評の反面、僕個人としては肌に合わない作品でありました。
ただ、できるだけ多くの人に見てもらうための努力が随所に詰まっておりましたし、絵柄もアクションも相当なお金がかかっていて大変にリッチです。映画として駄作という印象はなく、シンプルに好みの問題ですね。
鳴り響く80年代ロックと主人公の素晴らしい好演
まずは、この映画を観て純粋に素晴らしいと感じたのは、とにかく、作中で流れる音楽がものすごく良くて、聴いているだけでウキウキしてくるようなレトロな電子音が全編に流れていました。ところどころで80年代のロックミュージックが効果的に流れ込んでくるのですが、こういうオチャラケファンタジー世界観とエレキギターの相性は本当に抜群ですね。
そして音楽以上に印象的だったのは、主人公のアダムを演じたコラス・ガリツィンさんの素晴らしい演技でした。彼の佇まいは傲慢すぎることもなければ、逆に卑屈すぎることもなく、非常に絶妙なバランスでキャラクターを体現していました。プライベートでもいいヤツなんだろうなぁ、と思わせてくれる好演です。
劇中で見せる笑いの表情のレパートリーも本当に豊富で、全体を通して彼に対しては終始ピュアな好感を持って観ることができました。正直なところ、物語の続きや続編の脚本部分には全くと言っていいほど興味を引かれないのですが、「彼が演じるアダムの姿を観れるなら、それだけで次の作品も劇場に行っても良いかも」と思わせてくれるほど、映画を引っ張る唯一無二の存在感だったと思います。
テーマのブレと現代的な文脈がもたらすモヤモヤ
そんな魅力的な要素がありながらも、僕がどうしてもノリきれなかった最大の理由は、物語の根幹にあるテーマの描き方にありました。本作は「力では解決できない」という非常に現代的で重厚な主題を掲げているのですが、結果としてそのテーマを最後まで昇華しきれていないように見えてしまいました。まぁ、この辺は制作陣も重々承知の上で、あえてそうしたのだと思いますが…
主人公のアダムが、これといった努力も無しにとてつもないパワーを手に入れてしまう展開は、どうしても現代における核爆弾のメタファーでしょうし、その巨大すぎる力をうまく扱いきれずに父親を死なせてしまう展開も、それがどれほど危険な両刃の剣であるかという文脈として描かれているのだと思います。
さらには、白人金髪のムキムキ主人公と、不気味なドクロの姿をした悪役との衝突は、今の国際時勢においての、アメリカとそれに対立する敵対国との構図に見えます。その様に見えるようわかりやすく設定しているのでしょう。あからさまに、「これはそんな脳筋だけの単純映画じゃないよ」という提示でです。ですが、この提示が僕にはいらなかったのです。やるならとことん脳筋映画で突っ走って欲しかった。
提示されたものは仕方ない、その文脈を頭の片隅に置きながらスクリーンを観ます。クライマックスにて、アダムが剣を捨てて敵と「対話」を試みようとしたシークエンスでは、当然ながらその伏線回収をするものかと思いましたが、結局のところ拳による圧倒的な暴力で相手を殴り殺すという決着になってしまい、一体全体どういう着地点を目指したかったのかが分からなくなりました。
「こちらがどれだけ核を捨てて歩み寄ろうとしても、相手が自分自身のアイデンティティを『悪役』と定義づけているような存在であるならば、話し合いは一切無意味であり、やはり力で絶滅させなければいけない」ということが、この映画の導き出した答えなのでしょうか。であるならば、現在米国が世界に向けてる行動において、とても無邪気に「あぁ、面白かった!」と手放しで楽しむ気にはなれなかったのが本音です。
わかります、重々承知です。「この映画はそういう小難しい事を全て吹っ飛ばすところが最高なんだ!」「こういうのがいいんだよ!」「この時代にあえて金髪白人が筋肉で解決するのがロックなんだ!」なのだと思います。なので、「僕には合わなかった」なのです。僕の鑑賞スタイルとして、提示されたテーマは受け取ってしまうし、そのテーマを昇華しないのであれば始めから提示して欲しくない。「馬鹿映画」が目標なのであれば、「全身全霊で作った最高の馬鹿映画」が見たいのです。
感情のノリを阻害する過剰な「冷笑演出」
物語のテーマ性に加えて、演出の面でも好みに合わない部分が多かったです。劇中では、感動的な場面やシリアスな空気をあえてスカす、キャラクターたちが「あ、いや、うん……(笑)」と言葉を濁すような、わざと気まずい空気を作り出す笑いのパターンがあまりにも多く盛り込まれていました。かっこワライが随所に仕込まれています。
日本でいうところの福田監督作品に見られるような、ある種の内輪笑いというか、熱血な展開をあえて外すことでクスッとさせようとする手法の意図はよく分かります。しかし、それが映画の中で何度も何度も執拗に繰り返されてしまうと、観客としては物語への感情のノリがその都度リセットされてしまい、阻害されてしまうように感じました。大真面目に向き合いたいドラマの熱量が、冷笑的な空気によって冷まされてしまうのは非常に惜しいと感じるポイントでした。
記号化された脚本とこれからの時代の生存戦略
今作のモデルは1980年代に大ヒットしたマテル社のアクションフィギュアであり、当時のテレビアニメであり、熱狂的な固定ファンを持つ歴史ある作品とのことです。それを知った時、最初からその特定のファンに向けた特化型のテイストで作られているのであれば、僕のように原作を全く知らない人間が脚本にあれこれと文句を言うのは無粋かな、とも考えました。
しかし、キャラクター主導で熱量を持って自由に動いて物語が作られるのではなく、ガチガチに固められた脚本があらかじめ用意されており、そこにキャラクターをパズルのように配置していく構成を見ると、これは現代の観客が求める「記号的な楽しさ」へのアプローチなのかな、と考えました。
劇中で描かれる、予定調和過ぎて少しげんなりするような父親と娘の確執や、これも予定調和すぎるロボトが身を挺して健気に戦うシーン、「AのコマをBに当てて、Cのキャラクターをここに配置して石像を倒せばD兵の足止めになるよね」というような超お決まり展開は、従来の映画のセオリーから見ればご都合主義な構成ですが、現代においてはその全てが「これでいいんだよ!」に収束するのではないでしょうか。
振り返ってみれば、近年のヒット作を見渡しても同じような現象が起きています。例えばアニメ『ミルキーサブヴェイ』は1話数分という超スピードの展開で観客を絶対に飽きさせない努力をしていましたし、映画『超かぐや姫』もとにかく一瞬たりとも観客を離脱させないためにノンストップでお話をブーストさせ続けていました。その結果として、両作とも若い世代の間で爆発的な大ヒットを記録していまし、同じく『鬼滅の刃』にしても、劇中で「このまま落ち続けると衝突する!身体を捻って木で衝撃を和らげないと」といったように、状況や行動のすべてをキャラクターの台詞で説明してあげることで、観客が頭を使うストレスを極限まで和らげ、ストレートな見やすさに繋げて大成功を収めました。
僕の世代から観たら無粋に感じられるような演出や構成も、倍速で映像を観たり、あらかじめネタバレを確認してから劇場に足を運んだりすることが当たり前になったこれからの時代においては、これこそがスタンダードな構成になっていくのだと思います。映画館にわざわざ足を運んで映画を観るという習慣を若い世代にも繋いでもらうために、制作陣が必死に工夫を凝らした泥臭い努力の結果が、この記号的な割り切りやナビゲーションなのだと捉えることができました。
より多くの人に観てもらうために
一本の映画としてのドラマのカタルシスや、テーマの一貫性を愛する僕個人の物差しで測ってしまうと、今作の評価はどうしても「△」になってしまいます。
しかし、少し待てば自宅の配信などで手軽に新作を観られてしまうこの時代において、ユーザーが今まさに何を求めているのかという視点に立てば、この作品が取った戦略は決して間違っていないのかもしれません。過去の常識に縛られた懐古厨になってしまうのではなく、こうした新しい方向性の見せ方や構成の作品であっても、できるだけ多くの人に観てもらうための制作陣の努力と考えたい。
別のベクトルで作品を楽しめる新しい感性を模索する為に、自分自身の視野をアップデートしながら柔軟に映画を楽しめるようになっていきたいなと、今回の鑑賞を通じて強く感じさせられました。(とはいえ、その為の支出として一回二千円は高いなぁ…映画館のサブスクできないかなぁ)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さんの感想も、ぜひお聞かせください!


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