【ブゴニア】
- 鑑賞日 2026/02/18
- 公開年 2026
- 監督 ヨルゴス・ランティモス
- 脚本 ウィル・トレイシー
- キャスト エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、エイダン・デルビス
- あらすじ 陰謀論に傾倒する二人の男が、ある大企業の女性CEO(エマ・ストーン)を誘拐する。彼らは彼女こそが地球滅亡を目論むエイリアンだと信じ込んでおり、侵略を止めるよう脅迫する。しかし、彼女の不可解な言動と周囲で起こる奇妙な現象により、事態は予測不能な方向へと狂い出していく。韓国映画『地球を守れ!』をリメイクした、ブラックユーモア溢れるSFサスペンス。
- ジャンル アメリカ・イギリス・アイルランド映画 コメディ サスペンス
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)
感想
シニカルな笑いとスリリングな会話劇。エマ・ストーンがまた変な映画(最大級の誉め言葉)に出てる(笑)。ヨルゴス監督の作品だし、また難解な映画なのかなと身構えていましたが、筋道がしっかりしたシュールなコメディで、最後までノンストップで楽しめました。
筋道しっかりに、シュールな笑いの波
全体はシリアスなテイストですが、笑いのツボが超僕好み。シニカルでニヒルというか、間と余白を活かしたボケがとにかく絶妙で、往年の一人ごっつを観ている感覚です。
エマ・ストーンさんは、見当違いかもですが、僕の中でどこか松たか子さんに通じるものがあるというか、普通に行動しているだけなのになんか笑っちゃう。もちろん緻密な演技なんでしょうけど、本当に不思議な魅力を持った女優さんですよね。「今日から17時退社にするわ。でも強制はできないから、残りたい人は仕方ないから残っていいわ」なんてセリフ、いやらしすぎてオモロ(笑)
ゾクゾクする会話劇とリアルな恐怖
全編を通した会話劇の面白さにはゾクゾクしました!誘拐された主人公が泣き喚くわけでもなく、ロジカルに犯人たちと渡り合うのが最高。翻訳も大変だったでしょうが、見事なテンポです。会話から彼らの背景や過去を推測して考察していく過程がとにかく楽しいんですよね。
時系列もシンプルに進むので、他の作品群に比べても大変わかりやすい。ヨルゴス監督の作品は難解で抽象的なイメージですが、今作は原作があるからか、答えをハッキリ明示してくれるのが親切です。シンプルに面白くて楽しめる一作ですが、逆に、これまでの監督作が好きな人にはちょっと肩透かしかもしれません。
犯人役の二人も、よくあるテンプレな陰謀論者じゃなくて、実にリアルな人物造形です。下手にIQが高そうな分、より質が悪くて怖い。でもしっかり怒りの感情も持っているから底知れないものがあります。相棒のドンも心根は優しそうですが、次の瞬間には引き金を弾きそうでハラハラしました。狭い舞台での三人だけの物語が、物凄くスリリングで、かつコミカル。たまらないですよねぇ。
演出に隠された皮肉と社会的テーマ
「ブゴニア」というアンドロメダ語のカタカナフォントも、オリジナルで格好良くデザインされていますね。世界中の言語でこのフォント作ってるんですかね、デザイナーすごい!スタッフロールで流れるアンドロメダフォントのタテヨミも、何か意味があるのか、それとも無駄に考察させてしまうこと自体が陰謀論への皮肉なのか。
劇伴も見事で、テディの内情に合わせたオーケストラの不穏な旋律と鳴り響く衝撃音が、その後の静けさをより際立たせていました。やってることは滑稽なのに、壮大な金管楽器のファンファーレがなっていて、実情とテディのヒロイズムのズレを見事に音楽で表現されてましたね。
環境破壊や労働搾取、SNSによる陰謀論、イデオロギーの分断など、社会的テーマは色々あります。大資本に搾取されるテディも、心を病んだドンを洗脳している構図も示唆に富んでいます。でも、そんな難しい要素は感じ取らなくてもモーマンタイ。予告では難解そうに見えても、何も考えずに観て全く問題ありません。ただただ、ずっと面白い!
ラストに関しては好みが分かれるところですが、僕にとっては上映中に想像していたいくつかの結末の中で一番求めていた形だったので、脳内で拍手喝采しました。韓国版もあの終わり方なのかな。いやあ、あれは笑いましたね。
考察が止まらない「嘘」と「結末」
調べたら「ブゴニア」とは牛の死体から自然発生する蜂のことらしく、なるほど、蜂に始まり、○○の絶滅を経て、蜂に終わるのですね。構成が美しい!最後の意味深な歌には、ぜひ歌詞字幕が欲しかったところ。終わってから和訳を調べましたが、劇中で知れたらもっと嬉しかったですね。英語無知で申し訳ない…
ドンが最後にすがるように放った質問に、ミシェルが嘘をついたことで起きた悲劇。あの時嘘をつかなかったら、ドンはどんな選択を取っていたのか。そうすればミシェルも自身の過去を思い出すことなく、結末も変わっていたはず。あのラストから逆算して、どの分岐点でどの選択肢を取っていれば最後の審判が変わっていたのか。そう振り返って考察するのもまた楽しい。
テディの妄想で「アンドロメダ星人の髪には追跡能力がある」と剃られるのですが、丸坊主になったミシェルは、その大きな瞳と凛とした佇まいで、よりエイリアンに見える。それがテディの確信を増幅させるのが面白いです。ウィッグの時の凡人感と、坊主の時の超人感。このスイッチングが実に上手い!
混濁する現実と、揺るぎない結末
そもそも、僕を含めた観客のほとんどが、最初から「陰謀論ありき」で観ている構造自体が興味深いですよね。基本はテディが狂人でミシェルが常人。ミステリなら中盤で「テディの言っていることが真実かも?」と舵を切るのでしょうが、今作は一貫してテディ側がエコーチェンバーにはまっているテイストで進みます。その頑なな姿勢が、陰謀論に心酔した人々を解脱させる困難さを表しているようです。
話の通じない加減が、本当に怖い。殺人鬼や身代金目的の誘拐の方が、まだ対話の余地があるだけマシかもしれない。
月食の日までに、章が変わるごとに地球が徐々に平面になっていく演出も見事。実際に世界がそうなっているのか、拷問でミシェルの心が洗脳されているのか。そう考えるとあのラストも、電気ショックを受けたミシェルが見ている夢か妄想かもしれない。
興味深いのは、それが真実であれ妄想であれ、彼女が実行できる強大な力自体は変わらない、結末自体は変わらないという面白さです。どうあっても、人類の行く末は変更不可、というその切ない黄昏、超精密なプロットでお見事!
そんな結末でも、猫ちゃんとワンちゃんは生きていて良かった。
語りたくなる「極上の違和感」
『ブゴニア』は、難解そうな看板を掲げつつも、その実は最高にエキサイティングで皮肉の効いたエンターテインメントでした。エマ・ストーンさんの圧倒的な怪演と、ロジカルなのにどこか噛み合わない対話の応酬。このアンバランスな心地よさは、全集中できる劇場で観れて本当に良かった。
鑑賞後、ふと日常の何気ない出来事を「もしかして…」と疑いたくなってしまう、陰謀論の入り口に立たされる奇妙な傑作です!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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