【映画レビュー】「レンタルファミリー」/沢山の「良くも悪くも」が混在する、この美しい国で。

映画

【レンタルファミリー】

  • 鑑賞日 2026/03/02
  • 公開年 2026
  • 監督 HIKARI
  • 脚本 HIKARI、スティーブン・ブレイハット
  • キャスト ブレンダン・フレイザー、平岳大、山本真理、ゴーマン シャノン 眞陽、川崎美亜、柄本明、木村文、安藤玉恵、森田望智、篠﨑しの、板谷由夏、真飛聖
  • あらすじ かつてCMで人気を博したが、現在は落ちぶれて東京で暮らすアメリカ人俳優フィリップ。彼は、依頼人のために「家族」を演じる「レンタル・ファミリー」の仕事を引き受けることになる。見ず知らずの他人の人生に深く関わることに戸惑いながらも、様々な人々との交流を通じて、フィリップ自身も自分や家族のあり方を見つめ直していく。
  • ジャンル アメリカ映画 ドラマ ヒューマン
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)

感想

様々な「良くも悪くも」が存在する不思議なこの国を、そして八百万の神々を価値観に持つたゆたう民族を、大変美しい映像で優しく描いてくれる作品でした。

日本人向けというよりは、アカデミー賞を視野に入れた「対世界」に向けた作品ですが、これだけの外国資本で日本スタッフメインで作れたのは本当にありがたい。

窮屈な日本に紛れ込んだ「巨体」の哀愁

主演のブレンダン・フレイザー。かつての『ハムナプトラ』では、おそらく周りのキャストも高身長だったせいか、特別に彼のことを「巨体」だとは思わなかったのですが、狭い日本で、低い敷居や電車に紛れ込むと、その大きさが滅茶苦茶に目立ちますね。「この人、こんなにおっきかったんだな」と思わず笑ってしまいました。

そんな巨体が小さく縮こまって電車の席に座ったり、スーパーのちっちゃな寿司を食べたりしている姿は、とても窮屈そうに見えます。売れない自身の俳優業や孤独な生い立ちといった設定が、その姿により一層の哀愁を漂わせていました。

端から見れば、ゴチャゴチャしてせまぜましい日本。けれど、八百万の神が宿り、あらゆるものに感謝するその精神性は、とても豊かで広いものです。15歳で一神教を捨てたというブレンダンには、それがどう映ったのか。その対比が実に興味深いポイントでした。

「空気を読む」という島国特有のシステム

欧米含めた諸外国では、何か思ったらちゃんと話し合うのが一般的だというイメージがあります。この映画のように、うさんくさい会社を雇ってまで嘘をつき、関係性を維持しようとは考えないのではないでしょうか。これもまた、島国日本特有の「よくも悪くも」な一面です。

外国から観たら「最初に素直に話し合ってれば全部解決する話じゃん!」とまどろっこしいかもしれませんが、土地も資源も限られたこの国で、仲間同士うまくやっていくために脈々と受け継がれた国民性なのだから、これはもう仕方のないことでもあります。

ただ、これからはこの映画が示すように、今までのやり方では通用しません。移民が増え、SNSが氾濫したこの時代に、「黙して察する」ではもはや関係性は維持できないのです。かつては美しいとされていた「相手を思いやるための嘘」も、作中でミアがフィリップにつきつけるように、「なんで大人はみんな嘘をつくの?」という問いに直面してしまいます。

フィリップが答えた「正直に話すより楽だから」という言葉。僕らは今日まで、この国特有の「空気を読む」や同調圧力によって、この「正直に話す」という苦労から逃げてこれました。それは、世界でも珍しい「日本という国に日本人しかいなく、それで景気も回っていた」から成立していた幸せな時間だったのかもしれません。

日本の「今」を切り取る絶妙な塩梅

でも、これからはそうはいかない。言葉も価値観も違う人々と意志を疎通し、全力でぶつかり、コミュニケーションしてサバイブしなければいけない。数百年間、当たり前のように他国がやってきたことを、揺りかごから初めて出された僕らが味わう苛烈な時代……。そんな気が重くなるような未来ですが、この映画は一筋の光を見せてくれます。

完全に迎合するわけでもなく、かといって日本人の精神性をないがしろにするわけでもない。柔軟に柳のように、八百万に感謝しながら他者と手を取り合う。レンタルファミリーに頼るのではなく、正直に相手と誠意を持って話し合う。

狭いワンルームがひしめき合う暗い部屋で、フィリップが眺める他の窓の景色は、実に愛おしいものでした(盗撮ギリギリの行為ではありますが……汗)。

世界に向けた「日本」のレイヤー

全体の物語としては、日本人が観て「深くて感動する!」というよりは、あくまで「アカデミー賞を取りに行く」という世界に向けた作りになっています。日本をあまり知らない外国の方に「日本の文化と価値観をほんのちょっと掘り下げました」というレイヤーレベルで、日常会話に不自然なほど英語が入ってくるのもご愛敬。

今のハリウッドの「日本推し」の流れなら、この作品もいい所まで行けるかもしれません。子供が一人で登下校しているシーンなどは、海外の方には衝撃的でしょうね。

特筆すべきは、柄本明さんの「演技力妖怪」ぶりです。 健常状態と認知状態で、目の光が消えたり宿ったり……一体どんな演技体系を持っているのでしょうか。世界がこの御大の動きにどんなリアクションをするのか、今から楽しみです。

また、劇中の親子関係がどれも子離れ・親離れできておらず、一人の人間として尊重していない感じも、アジア圏特有の歪みとして欧米圏からは理解し難い、興味深い点として映るはずです。

孤独を際立たせる「性」と「教育」

フィリップの性欲が嫌気のない塩梅で描かれていたのも良かったです。そこを描いてこそ、彼の孤独が際立ちます。ただ、彼を癒す風俗嬢の「あたしは身体で助ける、フィリップは演技で助ける」という台詞はなかなかにグロテスクでした。

身体を売ることが絶対悪とされるキリスト教圏に対し、光監督はどういう意図でこの台詞を配置したのか。「職に貴賎なし」という全肯定なのか、それとも性的搾取というマインドなのか。このデリヘルやストリップの場面といった、日本独特の大っぴらな風俗文化には、男側としても色々と考えさせられました。

さらにお受験に翻弄されるミアの姿も胸が痛い。シングルマザーとして、これから更に不景気になる日本で、娘に苦労させたくないという母親の気持ちは痛いほどわかります。

アメリカ育ちのフィリップには理解できない、日本の封建的な教育システム。ここは「よくも悪くも」とは認めたくない部分です。子供が夢を持って伸び伸びと学校生活ができる社会であってほしい。幼少期のスタートダッシュで人生が決まってしまう世界はあまりに不公平ですが、映画としてはあえて明確な賛否を描かず、ですが観客を好意的にとらせないような「ほのかな誘導」を感じました。

窓の向こうの、愛おしい故郷

激しい主張やイデオロギーを抑え、全体を中道に描きつつ、日本人が観ても不快にならない絶妙な塩梅。窓の描写や東京の街並みは、雑多で汚い繁華街ですら、すごく綺麗な絵面で見せてくれます。しまいには、あんな窮屈そうな東京の風景が、「みんな一生懸命生きてるんだ」と愛おしくなり、この国をもっと好きになります。

僕は幼少期をアルゼンチンで過ごしました。だからこそ、この国の特異性は肌感覚で刻み込まれています。 日本に転校してきた当時は「空気を読む」や沢山の「良くも悪くも」などの習得に苦労しましたが、同時にこの国民性が作り出す漫画、ゲーム、映画、お笑い、バラエティ、グルメ、沢山の唯一無二に即魅了されました。村のとんど祭りやイノコ祭り、祖霊を尊び八百万の神々に感謝する美しい風習に、日本人としての誇りも芽生えました。

ガラパゴスで、真面目で不器用で、頑固でフットワークが重い。たくさんの「良くも悪くも」で溢れているけれど、そんな我が故郷が大好きです。

理想をレンタルするのではなく、大事な人に嘘をつくのでもなく。しんどくてめんどくさいけれど、腹を割って何度も話し合って生きていきたい。フィリップの様に、外国と日本、両方の良さを身に着け、その架け橋になれる人が沢山増えてくれたら――そんなことを思わせてくれる、良い映画でした。


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