【劇場版モノノ怪 唐傘】
- 鑑賞日 2025/04/29
- 公開年 2024
- 監督 中村健治
- 脚本 山本幸治 中村健治
- キャスト 神谷浩史、黒沢ともよ、悠木碧、小山茉美
- あらすじ 男子禁制の“女の園”であり、重要な官僚機構でもある場所・大奥。この場所でキャリアアップを図ろうとする新人女中のアサと、同じく新人女中で大奥に夢を求めるカメは、着任早々、集団に染まるための“儀式”に参加させられる。御年寄の歌山は大奥の繁栄と永続を第一に考えて女中たちをまとめあげるが、無表情な顔の裏に何かを隠している。そんな中、彼女たちを少しずつ“何か”が覆っていき、ある日決定的な悲劇が起こる。モノノ怪を追って大奥の中心部まで足を踏み入れた薬売りは、やがて大奥に隠された恐ろしくも切ない真実にたどり着く。
- ジャンル 日本アニメ ファンタジー ミステリー
- 鑑賞媒体 NETFLIX
- お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)
感想
テレビシリーズの「座敷わらし」のエピソードで泣いた記憶が今も鮮明に残っています。本当に良質で、制作者のセンスが溢れ出している素晴らしい作品でしたし、そんな思い出深いシリーズの映画化ということで、大きな期待を持って鑑賞しました。
映画版でも、あの唯一無二の和紙テクスチャで構成された世界観は健在です。最初はスクリーンに映し出される和紙の質感に少し違和感を覚えましたが、物語が進むにつれてその独特な風合いがすぐに馴染み、むしろ没入感を高めてくれるから不思議です。
閉鎖空間「大奥」という名の鳥かご
今作は三部作の第一部ということで、舞台は大奥です。大奥という閉鎖空間のみで物語の全てが進行していく構成は、映画として非常にハイリスクであり、制作者の思い切りの良さを感じました。フィールドとしては確かに狭いですが、そこに渦巻く情念の奥行きはとんでもない深さがあります。
四方を鳥かごのように閉じ込められた環境の中で、まるで「蟲毒」のように人々が淘汰され、怨念が熟成されていく様子には、観ていてゾクゾク、ワクワクです。この閉ざされた場所だからこそ生まれる密度こそが、今作の大きな魅力だと思います。
形・真・理を超越する映像のテンション
僕はお馬鹿さんなので、テレビシリーズの頃から物語の鍵となる「形(かたち)」「真(まこと)」「理(ことわり)」という仕組みを、毎度完全には理解しきれていないまま観てきました。なんとなくモノノ怪が斬られていくパターンを楽しんでいる部分があり、今作も正直なところ、物語を正確に理解できたのは7割程度です。
しかし、その不足した理解度を、圧倒的なアクションの気持ち良さが強引にねじ伏せてくれます。「あれ、今ので理が揃ったのかな?」という疑問が浮かんでも、画面から伝わる映像のテンションの高さに、「まあいいか!」と思わされてしまう力強さがありました。人物相関図や時系列も非常に複雑で、必死に頭をフル回転させて付いていく必要があります。それでも、バチバチに決まった構図や、音に合わせた演出の快感によって、理屈抜きで十分に楽しめますし、これはアニメーションという媒体が持つ、相当に強力な強みだと思いました。
狂言回しとしての薬売り
主役であるはずの薬売りが、あくまで狂言回しの立ち位置に徹している点も面白いと感じました。彼はあくまでそのポジションを守っているため、毎回事件の現場に一歩遅れて到着するのも納得がいきます。もし彼が純粋なヒーロー的役回りだったら、「もっと早く助けに来てよ!」とイライラしてしまうかもしれません。
物語の終盤で彼は大立ち回りを演じますが、それはあくまで「モノノ怪を斬る」というある種のメタファーに近いもので、物事の根本的な解決自体は、薬売りを介さない当事者たちの手によって成されているのではという印象です。そうしたキャラクターの配置も絶妙ですね。
命の根源であり執着の象徴である「水」
今作のメインテーマが「水」であるという設定は、非常に見事でした。水は人間が生きる上で欠かせない根源的な物質ですが、こと大奥という場所においては、その意味がさらに深く、重くなります。
上様の世継ぎを産むことが至上の命題である彼女たちにとって、下世話な言い方になりますが、「乾くこと」は文字通りの死活問題です。常に濡れ続けていなければならない世界で、それは表層的な潤いだけでなく、美貌や若さ、あるいは感性や野心も乾いてはいけないことを意味します。さらには、嫉妬心や欲望、負の感情でさえも、乾いてしまえばたちまちこの世界に喰われてしまう。それは現代社会でのSNS上の渇き、止まる事のない資本主義の渇き、様々な普遍に繋がるのでしょう。
あらゆる「渇き」に対抗し続けた結果、たとえ生臭い水であっても違和感なく飲み干してしまう彼女たちの姿には、この作品の基本設定の鋭さが光っています。テレビシリーズ同様、ポップでカラフルな絵柄とは対照的に、描かれる死生観やテーマの重さが際立っており、そのギャップに相変わらずゾクゾクさせられました。
色彩監督の天才的な手腕
キャラクター造形も素晴らしく、独特でありながら品格があり、総じて美しいです。特に色彩監督の仕事はマジで天才的!この方の色彩設計が、作品の命運を左右していると言えるほど重要な役割を果たしています。
一見すると、バケツ塗りでポンとクリックしたような思い切りの良い一色塗りに見えますが、隣り合わせた色の組み合わせのセンスがえげつないです。リアル志向で塗るよりも、こうしたデザイン的なセンスが問われる表現は、色の選択肢が無限にある分、自分だったら気が遠くなって気絶しちゃう…。適当に色を塗りたくって、それっぽく見せる誤魔化しに逃げるでしょう。
ギラギラとした油絵のような重ね塗りではなく、さらりとした単色の水彩色のような表現が、大奥の世界観に見事に合致していました。「水」というテーマとの相性も抜群です。また、侍の月代(さかやき)や青髭までもバケツ塗りで表現してしまったのは、まさに発明と言える面白い表現でした。
壮大な国造りへの予感
物語の細部まで全てを理解できているわけではないのが残念ですが、女性たちの情念や嫉妬、渦巻く陰謀や切なさといった感情の部分はビシバシと伝わってきました。感情面でこれだけ揺さぶられれば、映画体験としては十分満足です。次回の物語では、もう少し分かりやすくなっていても嬉しいな、とも少しだけ思いました。
三部作の一作目として、今はまだ助走のような感覚もありますが、全力の作画を堪能することができました。劇中、地下の柱に国造りに関係する三神が描かれていましたが、現在は大奥というミニマムな空間で起きている出来事が、呪術的な怪異と連動して、三作目には『日本書紀』に関連した国造りの大きな物語にまで発展したら、これほど熱い展開はありません。上様の世継ぎの行く末も、イザナギとイザナミによる国土誕生の神話に関わってくるのではないかと期待が膨らみます。
それほどの風呂敷を広げても遜色ない程に、あの閉鎖空間に渦巻く情念は底なしに恐ろしい。
三部作の幕開けとしてふさわしい熱量
今作は、まさに圧倒的な映像美と深いテーマ性が同居した、見応えのある作品でした。薬売りの立ち居振る舞いや、大奥に生きる人々の情念の描き方など、どこを切り取っても「モノノ怪」らしさに溢れています。物語が今後どのような広がりを見せていくのか、そしてあの美しい色彩が次にどのような世界を染め上げるのか、今から次作の公開が待ち遠しくて仕方がありません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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