【アニメレビュー】「チ。-地球の運動について-」/原作の持つ凄まじいエネルギーが、アニメという枠を超えて「歴史」へと繋がる衝撃の体験。

アニメ

【チ。-地球の運動について-】

  • 鑑賞日 2025/05/22
  • 公開年 2024
  • 監督 清水健一
  • 脚本 入江慎吾
  • キャスト 坂本真綾、津田健次郎、速水奨、小西克幸、中村悠一
  • あらすじ 15世紀のヨーロッパ。神童と呼ばれる少年ラファウは、大学で神学を専攻しながらも、天文への情熱を捨てきれずにいた。そんな彼は、謎の学者フベルトと出会い、宇宙に関する「ある仮説」に触れ、運命が動き出す物語です。
  • ジャンル 日本アニメ, 歴史, ドラマ, ヒューマン.
  • 鑑賞媒体 Amazonプライムビデオ
  • お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)

感想

数話見ての真っ先の感想。この名作を、もっと予算の潤沢なアニメで観たかったー!もちろん、制作会社様は丁寧に全力で作られていると思います。が、やはり他の気合が入っている系のアニメと比べてしまうと、動きに予算の限界を見て取れてしまいます。

『うしおととら』や『ベルセルク』などにも見れる、自分の大好きな作品がアニメ化された時に、100%の作画じゃなかった時の悲しみというのは、毎度切ないですねぇ…。

アニメーションとしての「重力」への渇望

まあ、上記の二作に比べて今作は会話劇が主体なのでまだマシではありますが、言い換えれば静かな場面が多いからこそ、動きに違和感のない作画で観たかったというのが正直な所です。僕はアニメに詳しくないですが、絵自体は解像度が高く綺麗なのに、人物の動きがカクッカクッとなる現象はなんというのでしょうか。

AからBへの動作に、本来は5枚作画が必要な所を3枚で描いている、とか?でも、もっと低予算で低品質なアニメでも、違和感のない動きをしている作品はありますし……。抽象的な言い方をすれば「重力を感じない動き」という印象です。ただ、その分演出をかなり頑張っているように見えて、窓の外を移動する月の光とか、情緒的なシークエンスは成功しているように思いました。

とはいえ、原作の持つとてつもないエネルギーで、アニメ版もそのままドライブできております。宗教が持つ絶対的な恐怖と、合わせて「それがあるからこそ過酷な時代を生きていける」という両面。そこに踏み込まれる天文学という学問。当時の社会常識を、現代の僕たちの目線で理解しやすい構成にしているのは、相変わらず見事としか言いようがありません。

現代で「世界は亀の背中に乗っていて、海の端に行ったら落ちるんだよ」なんて言ったら超バカにされるでしょう。でもこの作品の世界では、バカにされるだけで済めば幸いで、どころか拷問されて火あぶりなんですから……本当に恐ろしい時代です。体制に流されず、自分で沢山のソースを調べて、陰謀論にハマらず、いかに冷静に平等に世界を俯瞰で見ることが難しいか。そんな事を考えさせられました。

引き継がれる信念と、教育という名の核

主人公に感情移入した途端死んでしまって、次の主人公に感情移入したらまた死んでしまって……と、観るのがかなりしんどい構成なのですが、彼らの信念自体は続いていく、というカタルシスがたまらない。幼少期に読んだ、ジョジョ一部のジョナサンが死んだときの衝撃を思い出しました。

拷問描写をリアルに描けば描くほど、信念の強さが強固になっていく。代を経れば経るほど、その想いは広がり、深くなっていく。人間と言うのはいかに抑えつけ縛っても、その進化の本能で別のベクトルへ枝葉を伸ばしていくのだという、壮大な物語に感服です。

それらの根底となる為の、この作品の核はやはり「教育」ですよね。信仰を信じるのも疑うのも、宇宙を知るのも目をつぶるのも、他者に寄り添うのも、迫害するのも、全ては教育。どんな人と出会い、どんな人に教わるのか。その教育を一切合切封じた為政者たちは、その威力を十二分にわかっていたのでしょう。現代でも他国を侵略する時、まず着手するのは子供たちの教育ですしね……。

拷問官が最後に気付くとてつもない滑稽な事実も、神を師とした教育のみに傾倒した結果です。教えと言うのは進化の系統樹と一緒で、色々な事象を広く学ばなければいけないんだなあ、と痛感しました。ちなみに、声優の津田健次郎さんはこの作品の所為で、他の作品で出ると全部拷問されそうで怖いよう、となってしまいました。昔のドラマの冬彦さん現象ですね(笑)

境界を越えて現実に手を伸ばすフィクション

クライマックスの「P国」から「ポーランド」に移行する流れは、鳥肌が止まりませんでしたね。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』で、アニメから実写になった時の衝撃というか。フィクションが現実世界に手を伸ばしてくる、実際の脳みそに影響を与えて歴史を変えてくるという感覚。これは今のAI問題にもつながるショックというか、物凄い体験でした。

良くも悪くも日本にしか書けない作品で、宗教色の薄い文化圏だからこそ、こういったエンタメが生まれてくるんだなという、大変興味深い一作でもあります。脈々と名作が生まれ続ける日本漫画というこの土壌は、何者にも弾圧されず、作品内の様に何代にもわたってその信念を広げ続けた賜物なのかもしれません。

フィクションを越えて繋がれるバトン

原作への深いリスペクトがあるからこそ、アニメーションとしての表現にはもっと高みを目指してほしかったというワガママも出てしまいますが、それでもこの物語が持つ力は、どんな制約も超えて僕たちの心に、疑う事の大切さを刻みつけてきます。

自分たちのいる場所を疑い、思考を止めないこと。かつて命を懸けて空を見上げた人々がいたという事実と、この物語が繋いできたバトンを、SNS時代のこの時に受け取れて本当に良かったです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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