【FLOW】
- 鑑賞日 2025/03/16
- 公開年 2025
- 監督 ギンツ・ジルバロディス
- 脚本 ギンツ・ジルバロディス、マティス・カジャ
- キャスト ※この作品は台詞のないアニメーションのため、声優や俳優のクレジットはありません
- あらすじ 大洪水で街が水に沈みゆく世界を舞台に、旅に出ることを決意した一匹の猫が、流れてきたボートに乗り合わせた他の動物たちと共に、想像を超える出来事や危機に直面しながらも、少しずつ友情を育み、たくましくなっていく姿を描いたアニメーション作品です。
- ジャンル フランス・ラトビア・ベルギーアニメ SF アドベンチャー
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)
感想
個人的に今年度一番の期待作として楽しみにしていた『FLOW』。ゲームの『ICO』や『ワンダと巨像』を彷彿とさせる、あの静謐な世界観が本当に素晴らしかったです。
ただ、物語の中にメタファーやテーマはしっかりと込められているものの、『野生の島のロズ』や『ロボット・ドリームズ』のようなエンタメ真っ向勝負の作品とは異なり、かなりアート寄りの作りになっています。
このあたりは僕が少し苦手とするところでもあり、名作だとは思いつつも、最終的には好みの問題に帰結すると感じました。
「体験」に全振りした圧倒的な没入感
この作品は、物語をロジックで考察して楽しむというよりは、一つの「体験」に全振りしたような印象です。全編を通して猫の視点という非常に低い位置から描かれているため、遠いものが本当に遠く、高い場所は高く、そして大きなものは圧倒的に大きく感じられます。
その臨場感は半端ではありませんが、視点が常に低く動き続けるため、慣れていない人はかなり酔ってしまう可能性があるので注意が必要です。実際に、一緒に観た妻は相当に酔ってしまい、鑑賞後はしばらく動けなくなっていたほどでした。
映像の美しさはもちろんですが、映画館で一番その恩恵を感じたのは「音」でした。地面を走る音や水中の音、木々が揺れる音など、細部までかなりこだわって作られているのが伝わってきます。物語を追うというより、ひたすらVRでこの世界観に浸り続けるような、そんな楽しみ方がよさそうな作品です。ゲーマーにはおなじみの体験ですね。
恐怖の克服と共生への優しい視点
僕自身も猫と一緒に暮らしているので、作中の猫ちゃんが驚いたり可哀想な目に遭ったりするシーンを観るのは本当に辛かったです。同時に、彼が次第に恐れを克服していく姿にはとても誇らしさを感じました。
あれほど怖がっていた水中に自ら飛び込めるようになったり、一匹でいることを好んでいたのに集団生活に慣れていったりする変化が丁寧に描かれています。これは、今まで一人で制作を続けてきたギインツ・ジルバロディス監督が、今回初めてチーム戦で制作に挑んだという背景とも重なっていて非常に面白い点だと思いました。
恐れていた水中に飛び込んだ先で初めて目にする美しい世界や、鳥に捕まって高い所から初めて観る壮大な地平線。そして他者への恐怖を乗り越えて飛び込んだことで得られた集団での安心感と絆。
そういった「怖いことを克服したら、こんな素敵な世界が見れるよ」という優しい視点が、作品全体を通して貫かれていました。分断が進む今の時代において、この小さな船を地球に見立て、人種に関係なく仲良く乗らなければ沈んでしまうというメッセージは、とても重く普遍です。
原始的な感情で辿る「箱舟」の記憶
海洋恐怖症の僕にとって、底の見えない水中の描写には何度かゾゾゾっとさせられましたが、全体的に美しさを重視した映像表現のおかげで、なんとか最後まで観ることができました。
これまでノアの箱舟をモチーフにした作品は数多くありましたが、その多くは伝記として神の視点から俯瞰するものでした。しかし、今作のように「箱舟に乗る体験」ができる映画は極めて稀有な存在です。人間ではなく猫の目線を通して、その戸惑いや恐怖、そして喜びを、言葉を使わずに原始的な感情で追体験できたのはとても興味深い試みでした。
登場する動物たちがそれぞれ人種のメタファーのように感じられる点は、『ライフ・オブ・パイ』を連想させます。また、これほどまでに思想が強く表れているのは、監督が生まれ育ったラトビアの歴史や死生観が影響しているのかもしれません。
もし僕がもっとキリスト教に詳しく、ノアの物語や洪水と再生についての知見を深く持っていたら、さらに深い感動を味わえたのではないかと思うと残念です。そのあたりについても、改めて勉強してみようと思いました。
猫の目線が教えてくれる再生の物語
ロジックを立てて無理に言語化しようとするのではなく、ただその場に身を置いて、猫と共に世界を感じる。アート寄りの演出には好みが分かれるかもしれませんが、これほどまでに純粋な感覚を揺さぶられる映画体験はそうそうありません。
猫の瞳を通して見る世界は、過酷でありながらも、どこまでも美しく輝いていました。映画館の大きなスクリーンで没入できて良かったです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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