【映画レビュー】「ベター・マン」/猿の依り代が映し出す、スターの虚像と真実。

映画

【ベター・マン】

  • 鑑賞日 2025/04/02
  • 公開年 2025
  • 監督 マイケル・グレイシー
  • 脚本 マイケル・グレイシー、シモン・グリーソン、オリバー・コール
  • キャスト ロビー・ウィリアムス、ジョンノ・デイヴィス、スティーヴ・ペンバートン、アリソン・ステッドマン
  • あらすじ 「グレイテスト・ショーマン」のマイケル・グレイシー監督が、イギリスの世界的ポップ歌手ロビー・ウィリアムズの波乱に満ちた人生を、斬新な映像表現でミュージカル映画化。主人公ロビー・ウィリアムズを猿の姿で表現するという奇想天外なアイデアと幻想的な世界観、そして圧巻のミュージカルシーンでダイナミックに描きだす。
  • ジャンル アメリカ・オーストラリア映画 ヒューマン ミュージカル
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り △(×、△、〇、◎の四段階)

感想

音楽にしろ映画にしろ漫画にしろ小説にしろゲームにしろ、心を病まず、何も失わず、溺れず、足掻かず、順風に名作を生み出せた人はいるのでしょうか。だからこそ、魂が震えるような作品に出会えた時は、心身を犠牲にしてまで生み出してくれた作者に対して、心から感謝を捧げたくなります。

伝記映画の形式美と今作への違和感

僕は今回、ロビー・ウィリアムスさんのことは全く知らない状態での鑑賞でした。映画『ボヘミアン・ラプソディ』で、こういった伝記系の作品にハマった経緯があるのですが、最近は「成り上がる、頂点を極める、転げ落ちる、大切なものに気づく」といった流れが形式化してきて、少し既視感が出てしまいましたね。それが人生の普遍なので当然なのですが…

特に今作は、メタファーとして主人公を猿の見た目にしているので、純粋な感情移入はなかなかしづらく、どうしても一歩引いた目線で鑑賞することになります。

故人であるフレディ・マーキュリーとは違い、本人発の制作が入っている自伝であるからか、苦しんだ描写や最後の展開などは、だいぶロマンティックにヒロイックに描かれている印象を受けました。悪く言えば、さらけ出し切っておらず、まだ格好をつけているのではないかと感じてしまったのが正直なところです。ファン目線で見たらまた違ったのでしょうが、実在の人物の伝記物というよりは、完全なフィクションとしての映画として観たほうがよかったかもしれません。

「猿」というアイコンがもたらす功罪

主人公を猿にしたことは、良い面と悪い面がそれぞれ大きかったです。特に悪い面については、せっかく生身の人間が踊っている迫力あるシーンも、猿がCGであるためにその迫力がスポイルされており、そこは『ボヘミアン・ラプソディ』との圧倒的な迫力の違いでした。

良い面に関しては、猿というアイコンを挟むことによって、脚本に一歩深みが出たように見える点です。ただ、物語のメインとなる挫折と苦悩が猿を通して描かれるので、やはり感情移入の阻害になっています。生身の役者でこの物語を作ると凡百の出来になってしまうからこそ、猿にしたという「逃げ」に見えてしまった面もあります。チンパンジーに対しては失礼ですが、アルコールや薬物で音楽の制作も止めてしまい、進化していないことの現れとも取れました。

成功の代償と芸能界の搾取構造

様々な映画でも語られることではありますが、若くして名声と大金を得ることのリスク、そして身近に銃と麻薬がある社会の危険性は、何度見ても考えさせられます。日本の芸能界でも低年齢化が顕著ですが、大変に恐ろしいと感じます。ティーンアイドルの搾取構造については、観ていて非常に勉強になりました。

どうしても知らない人ばかりが出てくるので、僕の感想も映画的な部分に寄ってしまいますが、当時のシーンに詳しい人にとってはたまらない内容でしょう。もし日本でも、このようなテイストで90年代や00年代の芸能界を実名入りで作られたら、それはそりゃあ面白いだろうなと想像いたしました。

表現者が刻んだ苦悩の足跡に寄せて

アーティストが自らの人生を削ってまで表現し続けることの重みを、改めて突きつけられる作品でした。映画自体の好みとしてはあまり刺さりませんでしたが、成功の輝きとその裏にある影、そして本人があえて「猿」として自分を描かせた真意。それらを噛み締めると、一つの作品が世に出るまでの凄絶なドラマには敬意を払わずにはいられません。観て良かった一作でした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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