【ミッキー17】
- 鑑賞日 2025/4/9
- 公開年 2025
- 監督 ポン・ジュノ
- 脚本 ポン・ジュノ
- キャスト ロバート・パティンソン、スティーヴン・ユァン、ナオミ・アッキー、トニ・コレット、マーク・ラファロ
- あらすじ 惑星の植民地化を目指す探検隊に所属する「使い捨ての」人間、ミッキー・バーンズの物語。彼は死ぬたびに、記憶を引き継いだ新しいクローンとして再生されます。しかし、6度目のミッションで予期せぬ事故から生還したミッキーは、既に「7番目のミッキー」が活動していることを知り、自身の存在を巡るミステリーに巻き込まれていきます。
- ジャンル アメリカ映画 ミステリー サスペンス SF
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)
感想
上映時間中、終始脳神経がズビスビ刺激されて思考実験が止まりませんでした。倫理、宗教、思想、哲学、果ては侵略戦争まで内包するSFエンターテイメント。
これが単なる荒唐無稽なフィクションではなく、遠くない未来、あるいはすでに人類が到達しているであろう事柄であるのが、本当にすごい時代に生きていると感じさせられます。
クローンが突きつける「個」のゆらぎと現代的なリアリティ
クローンであっても性格が各々違うというのは楽しい設定でした。機械が古くなっていく所為なのか、あるいはコピーを繰り返すと理性部分が劣化するのか、最新のミッキーは率直に怒りを表現します。これが観客にとっても見分けやすい役割になっていましたし、僕たちは幼いころからドラえもんのコピーロボットなどを見て育っているので、このあたりの設定は抵抗なくスッと入ってきます。
クローンや人体錬成というネタ自体は世にありふれていますが、巨大企業が管理している点や、デジタルで記憶を引き継ぐことが可能になるであろう時代背景、SNSなどで自分の分身であるアカウントを勝手にBANされたり複数管理したりすること自体がクローンと同義であったり、今の時代に観てこそのオリジナリティがあって良かったです。以前に『月にとらわれた男』を見た時とは、僕自身の価値観もかなり変わっています。
テセウスの船ではありませんが、一度壊して直したものは元の個体と同じなのだろうかという問いを、今作は「同時に存在してしまう」ことで一気に哲学的な深みを増させていました。SFという枠組みを使いながら、ブラックユーモアと社会風刺が絶妙に混ざり合った、ポン・ジュノ監督らしい作家性が全開。身体は違えど記憶を引き継いだ自分は果たして同一人物なのかという、SF古典的なテーマを現代的にアップデートしています。
消耗品としての労働と資本のバランス
「君の仕事は死ぬことだ」という言葉は一見SF的な設定ですが、実際それに近い職種が僕たちの世界にも存在しているのだから恐ろしい話です。人間を消耗品として扱う設定が、現代の労働環境や格差社会への強烈なメタファーになっており考えさせられました。死を繰り返す「ミッキー17」と、生き残ってしまった「ミッキー18」の二役を、声や仕草で完全に見事に演じ分けているロバート・パティンソンの演技も圧巻。
先住生命への扱いなど、トラウマレベルに酷く描くこともできる箇所を、ポン・ジュノ監督らしくちょうど良く見られる「いやぁ〜な絶妙なバランス」で描いていました。シリアスなテーマを扱いながらも物語の展開がスピーディーで、エンターテインメントとして純粋に楽しめる作品になっています。
作品自体のSF濃度はそれほど濃くありませんが、これを入り口に色々な哲学やSF的思考実験が止まらなくなります。正直、上映中物語そっちのけで、思考が様々な場所に飛びそうになっていたほどです。ただ、そのような深い考察は軽めに抑えて、社会的なテーマを前面に出しており、これは監督の色でもありますし、幅広い層への訴求としてはこちらの方が正しいのでしょう。個人的には同じテーマで哲学や宗教色を掘りまくったバージョンも是非見てみたいと感じました。
ハリウッドでの制作とポン・ジュノ映画の解像度
どうしても最後が大味で、予想通りの終わり方というか、無難に終わらせた感じがしました。ハリウッドで制作する以上これは仕方のないことなのかもしれませんが、もう少し余韻が残るような、この設定に相応しいSF的なラストが欲しかったのが正直なところです。
従来のポン・ジュノ監督の映画は、とにかく韓国の社会、文化、考え、人間性などの解像度がとんでもなくて、すごく勉強になって面白いのですが、今作はセットを作り、惑星の綺麗なCGを作ったという部分以外の、彼らの社会性や風俗といった細かい設定がアイコン化している感じがして、ちょっと物足りませんでした。本来別に使わなくて良い部分でも予算を使えたりして、力が分散するのでしょうか。こういう作り方は非常にハリウッド資本っぽさを感じましたね。
アメリカ進出すると何故かみんなこうなってしまう。またミニマムな舞台で人間を描いた「ザ・ポン・ジュノ映画」が見られることを楽しみにしています。
よくできた映画でしたが、ポン・ジュノ監督ということでハードルが上がりすぎた一作でもありました。それでも、今回の作品で得られた哲学的な刺激や、現代社会への鋭い視点は非常に貴重なものでしたので、映画館で鑑賞できて良かったです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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