【映画レビュー】「ナミビアの砂漠」/白でも黒でもない、剥き出しの「リアル」を定点観測

映画

【ナミビアの砂漠】

  • 鑑賞日 2025/03/19
  • 公開年 2025
  • 監督 山中瑶子
  • 脚本 山中瑶子
  • キャスト 河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ
  • あらすじ 21歳のカナは、世の中や人生につまらなさを感じていた。優しいが退屈な恋人ホンダから、自信家で刺激的なハヤシに乗り換え新しい生活を始めるが、次第に自分自身に追い詰められていく。
  • ジャンル 日本映画 ドラマ
  • 鑑賞媒体 Amazonプライムビデオ
  • お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)

感想

正直なところ感想を言葉にするのがとても難しい映画でした。わかりやすい重さや軽さがあるわけではなく、映画的なカタルシスが絶大というわけでもありません。全体的にアート寄りな質感で、僕としてはどちらかといえば苦手な部類に入る仕上がりでした。

もしこれをおうちのモニターではなく、小劇場のレイトショーなどで鑑賞していたら、抱く感想はまるで違ったものになっていたかもしれません。

言葉にできない「リアル」の感触

今作を観て感じたのは、「リアル」と「リアリティ」の差を言語化することの難しさです。おそらく今作が描いているのは「リアル」なのだと思います。例えば、友達の友達が自殺したという話を表面上は神妙な面持ちで聞きながら、実際には耳だけ周りの卑猥な会話に集中しているような場面。

あるいは、二股をされてもずっと尽くしてくれる「犬系男子」の存在。そういった人間の生々しいリアルが描かれています。

ただ、それが胸に深く突き刺さってくるリアリティになっているかと言われると、単純にそうはならないのが難しいところです。画面作りがアート寄りで上品なため、どこかフィクションとしての度合いが増しているように感じました。これは完全に好みの問題ではありますが、その上品さが壁になっている印象です

漂うユーモアとシュールな演出

テーマ自体はかなりシリアスなものだと思いますが、監督が意図したであろうユーモラスな空気感はすごく好きでした。シュールな「間」が僕のツボに入り、ちょこちょこ笑ってしまう場面があった。アートでありながらポップさも兼ね備えていて、監督の独自のカラーがよく出ていました。

演出面でいえば、あえて狙っているのだと思いますが、ギュンっと急に不自然なアップになる手法はとても面白かったです。こういった遊び心のある演出には、思わず意識を奪われましたね。群衆の只中を歩いている主人公を急にアップに映す演出などは、さながら鷹の捕食のアングルのようでした。

たゆたう物語と定点観測

作品には伏線や起承転結といったかっちりした流れは存在しません。主人公の生き方と同様に、行き当たりばったりというか、ゆらゆらとたゆたうような導線で物語が進みます。唐突に映し出されるナミビアの砂漠もその象徴でしょう。

映画というよりは、絵画やジャズのセッションに近い感覚で、監督のパッションによって作り上げられた作品だと感じました。ロジックを立てて無理に言語化しようとするのではなく、なんとなく感じた想いにそのまま浸かって楽しむのが、この映画には合っています。そういった意味では、まさにブログ殺しな一作です。

作中の犬系男子が「そうだね、辛かったよね」と浅い共感を示すシーンがありますが、まさにそれで、レビューで安易に決めつけたり、語彙力のない言葉で言語化したりすることに対して、監督からの「勝手に決めつけるな」という気概を感じます。

名前の付けられない表現の形

YouTubeでナミビアの砂漠を定点観測するように、この主人公の人生をただただ定点観測し続ける。そんな映画だったのではないかと考えています。

感想の内容はもちろん、主人公の病状や、終盤のドタバタした喧嘩のプレイ感も含め、あらゆる事象に名前を付けることができません。白でも黒でもないこの感性と表現力は、本当にすごいものがありました。

小劇場で観た後に、下北沢あたりの場末のバーで一杯飲みながら余韻に浸る。そんな鑑賞スタイルが一番幸せな気がします。何はともあれ、唯一無二の感性で貫かれた完成度の高い一作でした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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