【ファーストキス 1ST KISS】
- 鑑賞日 2025/2/12
- 公開年 2025
- 監督 塚原あゆ子
- 脚本 坂元裕二
- キャスト 松たか子、松村北斗、吉岡里帆、森七菜
- あらすじ 「花束みたいな恋をした」「怪物」の脚本家・坂元裕二と「ラストマイル」「わたしの幸せな結婚」の監督・塚原あゆ子が初タッグを組み、オリジナルストーリーで描いた恋愛映画。結婚して15年になる夫を事故で亡くした硯カンナ。夫の駈とはずっと前から倦怠期が続いており、不仲なままだった。第二の人生を歩もうとしていた矢先、タイムトラベルする手段を得たカンナは過去に戻り、自分と出会う直前の駈と再会。やはり駈のことが好きだったと気づき、もう一度恋に落ちたカンナは、15年後に起こる事故から彼を救うことを決意する。
- ジャンル 日本映画 ロマンス ファンタジー
- 鑑賞媒体 映画館
- お気に入り △(×、△、〇、◎の四段階)
感想
映画『ファーストキス 1ST KISS』を観てきました。個人的に、恋愛物語とタイムリープが融合した作品の最高峰は『バタフライ・エフェクト』だと思っているのですが、今作に関しては、夫婦の愛を描く上で必ずしもSF設定という大きな飛び道具が必要だったのだろうかと、少し疑問が残ってしまいました。
というのも、僕たち現実の夫婦にはやり直しのチャンスなんて用意されていなくて、いつだって一回勝負で日々を積み重ねているし、やり直しができないからこそ相手を尊重し、何気ない日常を大切にする訳で…
圧倒的な役者陣の魅力とプロットのギャップ
相も変わらず主演を務める松たか子さんには圧倒的な魅力があって、その素晴らしいお芝居のおかげで最後までしっかりと観ることができます。松さんのコミカルさは最強で、別に特別なボケをしているわけではないのに、普通に動いているだけの場面でもなんだかクスッと笑ってしまいます。会話劇のテンポも終始非常に気持ちがよく、本当に魅力的な女優さんだと改めて実感させられました。
しかし、そうした役者陣の輝きに引っ張られる一方で、プロットの骨組みだけを取り出してみると、今一つ感情移入がしづらい部分がありました。僕は脚本を担当された坂元裕二さんの作品が大好きで、いつも人間の心の裏側をグサッと刺してくるような鋭い描写に惹かれています。けれど、今回彼が提示してきた夫婦の生き様に関しては、僕自身の夫婦観には上手く刺さりませんでした。
リアリティラインとSF設定のバランス
劇中の夫婦を見つめていると、どちらにも明確な美学が感じられないというか、お互いに何を一番大切にして生きてきた夫婦だったのだろうかと今一つ読み取れません。もしその内面を深く掘り下げないのであれば、SF要素としてのスペクタクルやギミックを純粋に楽しめば良いのかもしれません。しかし、そこは設定として少し緩めな印象があり、SFとして没頭するにはやや無理があるように思えます。
それならば、いっそのことドラマ「ホットスポット」の様に全体のリアリティラインをぐっと下げて、コメディに特化した作品として楽しめば良いのかとも思いましたが、そこには「夫の死」という、どうしても揺るがない重い事実が横たわっています。そのため、全体としてどこに感情を置いて感動すれば良いのか、戸惑ってしまう難しい作品でした。
個人的には、夫の死というセンセーショナルな要素をあえて入れずに、過去の夫と繰り返し向き合う中で人間同士の深みを描き出していくような渋いアプローチの方が響いたかもしれません。派手な要素に頼らず、現在において二人がこれからどんな道を歩んでいくのかをじっくり見せる構成であれば、地続きの夫婦の物語としてもっと共感できた気がします。「片思い世界」も上手くハマれませんでしたが、坂元脚本はファンタジー要素を入れない方が、僕は好きみたいです。
だからこそ、最終的に夫の死を回避するというオチに向かっていく流れに対して、どこか少し醒めた目で見てしまう自分がいました。ただ、若い頃の妻と今の精神年齢のままで出会ったらどんな会話を交わすのだろうか、などと色々と想像を膨らめて妄想する時間はとても楽しかったです。
やり直しのきかない現実と物語の美しさ
今作をお葬式や通夜のように、突然亡くなってしまった相手への心の整理をつけるための物語なのだと捉えれば、腑に落ちる部分もあります。プロットとして整理すれば、本来は離婚するはずだった夫婦が急に死に別れてしまい、気持ちの整理がつかない状態の中でやり直しのチャンスを与えられます。
そして、過去の夫と対話を重ねることで、彼の死を受け入れて前を向いて進んでいく。さらには、どちらの世界線であっても「夫は妻と仲良く餃子を食べたかったんだ」という着地に繋がる、非常に美しい物語です。
ただ、どうしてもそこに夫婦としての甘えのようなものを感じてしまいます。現実の夫婦は決してやり直しがきかないからこそ、お互いを思いやり、傷つけないように、武骨であっても別れに至らないように必死で泥臭く頑張るものだと個人的には考えます。
それを怠ってしまったからこそ、この劇中の夫婦は離婚寸前までいっていたはずです。それなのに、何度もやり直せる特別な機会をもらって、最終的に綺麗に解決してしまうというのは、僕にとっては今ひとつ響きませんでした。つい心の中で「ズルすんなよ!」と突っ込んでしまいました。
もう少し離婚にいたるまでのお互いの人間としての醜い部分を描き、いかにどれだけ傷つけあったか、取り返しのつかない態度を取ってしまったか、そこをしっかり描いた上で、「それでもあなたと生きたかった」と昇華させてくれたら、抜群に感動できたかもしれません。
何か、この夫婦が「特別に何度もやり直ししても応援したくなる」設定が一つ欲しかった所です。夫が身を挺して子供を助けた、という事実に関しては、この縦軸に上手く絡んでいないように思いました。全体を通して人物の内面を掘り下げた結果⇒その事件が起きた、というよりは、その事件を設定⇒それに対して人物を舞台装置的に動かした、という印象です。
夫婦の数だけある視点
世間では大絶賛されている作品なので、僕の視点が少しひねくれすぎているのかもしれません。ですが、一緒に劇場へ足を運んだ妻も同じように首を傾げていましたので、夫婦そろって同じようにひねくれた感想を持てたことに、どこかホッとして安心しています(笑)
ひねくれ夫婦として、対話を重ね、二度とやり直しなんて出来ない事を心に留めながら、末永く仲良くやっていきたいな、と考えさせられました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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