【映画レビュー】「まる」

映画

【まる】

  • 鑑賞日 2025/03/18
  • 公開年 2024
  • 監督 荻上直子
  • 脚本 荻上直子
  • キャスト 堂本剛、綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィン
  • あらすじ 美大を卒業するも、アートで成功できず、人気現代美術家のアシスタントとして無気力な日々を送る男・沢田。ある日、事故で職を失い、ふと描いた「〇(まる)」がSNSで一躍有名になり、正体不明のアーティストとして世間の注目を集める。しかし、名声を得るにつれて、彼の日常は「〇」に浸食されていく。
  • ジャンル 日本映画,ドラマ
  • 鑑賞媒体 アマゾンプライムビデオ
  • お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)

感想

つよポン久しぶり!子供の頃観てたドラマ『ぼくらの勇気 未満都市』ぶりに拝見できてとても嬉しいかったです。

堂本剛さんという方はアイドルという人生を歩み、常に他者からの絶対評価で飯を食うという立ち位置に身を置いてこられたからこそ、今作の主人公が抱く戸惑いや苦悩、そして達観といった複雑な感情がストレートに伝わってきました。

過去に体を壊されたりもしたお話をおぼろげながら聞いていますが、それらの過酷な試練を経て、現在の彼が独特な悟ったようなオーラをまとっているのは、本当に稀有な俳優さんになったなと感じます。作中での、常に目が虚ろな感じの佇まいも、この作品のテーマに驚くほどピッタリとはまっていました。

資本主義に消費される芸術と「〇」の暗示

本作は、資本主義における芸術というものを盛大に皮肉った一作に仕上がっています。特に前衛芸術や現代美術といった、なかなか客観的な評価が難しい芸術の世界において、大衆がいかに簡単に踊らされていくのかを視覚的にわかりやすい展開で描いていました。

主人公が純粋な初期衝動で描いたただの「〇(まる)」が、周囲によって勝手に意味を押し付けられ、価値をでっち上げられ、メディアで散々振り回されてしまいます。そして最終的には、その「〇」が当初のものとは全く違う意味合いに変質していってしまう。

いやはや、つくづく芸術というのは不思議でうさん臭く、そして恐ろしいものだと感じずにはいられません。作中で丸が散りばめられた「けんけんぱ」をして遊ぶ描写があるのですが、その決められたルートしか進むことができない様子も、ある種の暗示のようでどこか寒気を感じてました。

全クリエイターが背負う制限の呪いとアイデンティティ

クリエイティブ界隈に身を置いている人であれば、今作には共感できる箇所が非常に多いと思います。まず一般的な感覚としては、「ラッキーパンチが当たればめちゃくちゃいいじゃないか」「ただ〇を書くだけでボロ儲けできるなんて最高じゃん!」という価値観になるのが普通だと思います。

しかし、クリエイターというのは本当にメンドクサイ人種であり、決して格好をつけているわけではなく、自分が作りたくない作品を作るのは心から苦痛を感じる生き物なのです。

描きたくない絵を描くというのは本当にしんどいですし、どうしてもテンションが上がりません。それは全てのクリエイターが持つ一種の「呪い」のようでもあります。それは今作の荻上直子監督であれば『かもめ食堂』、庵野秀明監督であれば『エヴァ』のように、世間から「もうそれしか作らせてもらえない」「〇の中からはみ出させてもらえない」という状況に追い込まれる姿にも重なります。

だからこそ、劇中で唯一、怒りを爆発させて丸の絵を拳でぶち抜いた主人公の描写は、世界中のクリエイターたちが抱える怒りそのものに見えました。

また、作中に出てくる「なんでお前が本物だって言えんの?」というセリフはとても胸に刺さりました。特に実体や絶対的な評価基準のない芸術の世界においては、これ以上ないほど辛辣オブ辛辣な言葉です。

これからAIが社会を席巻していく時代を迎えるにあたり、作者の持つ哲学はことごとく砕け散っていくのかもしれません。そのアイデンティティの喪失というのは、時に自死を選んでしまう人がいるほどの大きな衝撃を伴うものだと思いますし、そういった遠くない未来のことも考えさせられる映画でした。

円環の制限がもたらす自由と芸術の選択

丸の中に居続ける限りは、決して自由はないものの、安全で外敵もいない環境が保障されます。その一方で、丸の外には果てしない自由が広がっていますが、その引き換えとして自分を守ってくれるものは何一つありません。

また、円環というのはグルグルと同じところを回っているだけで、一見すると進化がないようにも思えます。しかし芸術というのは、得てして制限があるからこそ産まれるものでもあります。逆に円の外側にある「何をしていいよ」という全くの自由な環境からは、なかなか名作は生まれないものです。

劇中で主人公が手を怪我して初めて素晴らしい丸を描けたように、芸術は常に何らかの制限から発展していく側面を持っていると思っております。安全な不自由と、危険な自由。果たしてどちらが幸せなのか、あるいは主人公は最終的にどちらの生き方を選ぶのか、そのラストの着地も非常に興味深かったです。

正直なところ、全編を通して演出やトーンは抑えられたテイストであり、プロット自体も地味な流れで進むため、エンタメとしてドップリと没頭するようなタイプの作品ではないかもしれません。それでも、僕にとってはこれからのクリエイティブの在り方を含めて、色々と深く考えさせられる有意義な一本となりました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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