【映画レビュー】「キングダム 魂の決戦」

映画

【キングダム 魂の決戦】

  • 鑑賞日 2026/07/17
  • 公開年 2026
  • 監督 佐藤信介
  • 脚本 黒岩勉、原泰久
  • キャスト 山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、岡山天音、志尊淳、神尾楓珠、結木滉星
  • あらすじ 原泰久の人気漫画を実写映画化したシリーズ第5作で、原作屈指の人気エピソード「合従軍編」が描かれます。大将軍・王騎の死から3年、千人将へと昇格し成長を続ける信。しかし、趙の宰相・李牧の策略により、秦以外のすべての国が手を組んだ総数50万の「合従軍」が侵攻を開始します。かつてない国家滅亡の危機を前に、信は同世代の若き将である蒙恬や王賁、そして秦が誇る名将たちと共に、国門である函谷関へと向かいます。
  • ジャンル 日本映画,アクション,歴史,ドラマ,ワクワク
  • 鑑賞媒体 映画館
  • お気に入り 〇(×、△、〇、◎の四段階)

感想

「キングダム」と言えば僕の思い出として、今から約20年以上前、駆け出しの漫画家志望の頃、ヤングジャンプで初めて編集担当についていただいた方が、原泰久先生と同じ編集者の方でした。「今この人がイチオシでね、勉強のために見るといいよ」とその方に言われて、デビュー前の賞に出す原先生のネームを見せていただいたことがあり、今でも鮮明に覚えています。

それは『キングダム』の卵となるお話でして、それから長い年月を経て、今日劇場で実写映画化された最新作『キングダム 魂の決戦』を観ていることが、大変に感慨深かったです。

役者陣の華やかで圧倒的な画面映えに舌鼓を打ちつつ、ただ、その見得に頼り切った構成にも懸念を抱いた結果、総じた鑑賞後感は「もっと邦画に予算をぉぉ!」でございました。

合従軍編の幕開けと一本の映画としてのジレンマ

今作は、楚の臨武君と趙の万極という中大将二人を倒した所で終わりました。正直「え⁉もう終わり⁉」と感じてしまう程、原作で言うと合従軍編の函谷関をめぐる壁争奪戦の、まさに序盤中の序盤にあたります。この調子で行くと、合従軍編が終わるのは果たしていつになるのだろうと、このスパンで本当に大丈夫なのだろうかと心配になってしまいました。

次回が楽しみになると言う意味では良しですが、一本の映画として見ると「次までにいくらでも待てるぞ!」と思えるほどの満足感を得られなかったのは残念です。

最近の漫画実写化に関しては、一時期の目も当てられない地獄期を経て、『沈黙の艦隊』や『ゴールデンカムイ』のように、原作リスペクトで、かつリッチな絵柄での仕上がりが可能な領域まで来ており、今作もかなり期待して映画館へ行きました。

ですが、やはり合戦ものはまだハードルが高すぎたでしょうか。北海道ロケが可能で登場人物がそこまで多くない『ゴールデンカムイ』や、潜水艦という限定空間で多くの話が進む『沈黙の艦隊』に対して、日本の合戦ものならまだしも、中国の万単位の軍隊の激突を描写するのは、さすがに手にあまっている印象を受けました。

限られた予算をなんとか合戦シーンにつぎ込むため、前半はかなり眠たくなる状況説明や政治劇で尺を稼ぎ、ド派手な音楽と役者さんの見得でなんとか持たせる134分。それらのフラストレーションを一気に後半の合戦シーンで昇華してくれると思いきや、そこも悲しいかな、ぶつ切りで場面転換も多く、アップの多いアクションでなんとか乗り切る感じでした。

過去作までは箱庭での小規模戦闘や個人間でのお話だったため、演出や役者さんの魅力で補えたのですが、今作の万単位の合戦では、はためく旗のアップが何回も続いたり、役者さんのなめスクロールを何度も映したりして、「はじまんのかい?はじまらんのかい?はじまんのかい?はじまらんのかーい!」というすち子状態。昔アニメ『ドラゴンボール』で、放映が本誌連載に追いついてしまう為、「はあぁぁぁぁ!」と悟空とベジータが延々と気の放出で時間稼ぎをして「また来週!」と終わった時の事を思い出しました。

こうした構成の大前提は予算の関係にあると思いますが、最近の風潮として、漫画原作を少しでも切ったり省略したりするとファンから滅茶苦茶批判されることへの懸念もありそうです。『鬼滅の刃』なども三時間超えの尺をもってしても無限城編を終わらせられないほど、忠実に厳密に原作を再現しないと滅多刺しにされてしまう。

昔の手抜き実写化に比べたら百倍良い風潮だとは思うのですが、それでも漫画と映画は別物ですので、監督が原作を愛した上で取捨選択し、一本の映画としてのクオリティを作りあげてほしいのが個人的な理想です。このペースだと俳優さんたちの加齢や体型変化など、クオリティ維持が過酷すぎますので、早くAIがもっと発展して、背景などはサクッと作れて役者さんたちの生の演技に予算を全ツッパできるようになればいいなと思います。

全年齢レーティングの制限が生んだ演出の発明

戦争という死を描く物語でありながら、全年齢レーティングという縛りがあるのも制作陣の悩みの種でしょうか。予算が限られて合戦CGをふんだんに描けないのであれば、ショッキングな殺害シーンやド派手なグロ描写で目をごまかすのも一つの手です。特に万極が秦に恨みを持つ原因となる、40万人が生き埋めになった長平の過去などは、いくらでも凄惨に悲劇的に描くことができたでしょうし、ドラマとしても万極に深い感情移入をさせられたはずです。

ですが、制作陣はそのレーティングを逃げにせず、全ての人が楽しめるよう、その縛りの中で最大限ギリギリの演出で表現していおり、興味深い場面が何度もありました。

生き埋めの直接的な描写が出来ないなら、砂の上と下の、境界線をまたぐ真横からの顔が埋まっていくアングルで、観客にその恐怖を想像させる。アップの惨殺シーンが描けないなら、遠目のアングルで大群が切り込まれていく描写で沢山の戦死者が生じた事を想像させる。ファミコンの三和音という少なさで名曲を数々生み出した植松伸夫さんや、8ビットという極小CPUで壮大な世界を作り上げた『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』のように、人は制限があるからこそ偉大な発明を生み出すのだと再認識しました。

マクロとミクロを繋ぐ佐藤監督の鮮やかな戦場描写

合戦シーンに予算不足を感じたとは言いましたが、尺が物足りないだけでクオリティ自体は素晴らしかったです。背景の実存感は高く、CGと現実の境目も極めてリアルで判別できません。役者さんたちのアップと短いカット割りでの誤魔化しが多いものの、ハッとするアクションシークエンスは沢山ありましたし、特に原作漫画の最も素晴らしい点の一つである「戦場をわかりやすく視覚化する」という部分が見事に再現されていました。

戦場を地図上のコマにしたり、抽象的な概念で説明することはよく見ますし、洋画の合戦シーンにおいても大軍同士が正面から派手にぶつかっているだけで、全体の戦局や戦術はよくわかりません。しかし『キングダム』はそれをチェスの如く俯瞰でみせつつ、かつ兵士の目線でも見せてくれるので、マップの脳内構築が気持ち良いほど自然に出来るのです。

河了貂目線で崖の上から軍隊の全体図を見せつつ、次のパンでは信の目線による軍隊の真っ只中の視線に切り替わる。このマクロとミクロの描写を巧みに入れ替えることで、あれだけ登場人物が多くて複雑な戦場なのに、大変にわかりやすく僕たちは理解できます。これをサラッとやってのけている佐藤信介監督はすごいです。特に合戦中の将軍が、軍隊の向こう側で砂煙が上がっていることから戦局を判断する描写などには、もうゾクゾクしてしまいます。フィクションだったとしても、当時の実際の戦場はこんな感じだったのだろうかと、想像の楽しみと臨場感を与えてくれました。

僕はスポーツ観戦にほとんど興味がないのですが、この様に俯瞰の全体図と選手目線の映像をリアルタイムで生成してくれたら、もっと楽しめるかもな、と思いました。

また、常々中世戦記物を見ていると、合戦中でカオスな状況において、拡声器もないのに演説が聞こえる訳ないじゃんというツッコミも、今作では画面が震えるほどの「シンプルに超声がデカい!」という力業で押し切ってくれたのも嬉しかったです。峡谷で声が反射しやすいという環境もあるでしょうが、この時代の人たちは滅茶苦茶通る発声法だったのだという設定に、ちゃんと納得感を感じる演出でした。

こういうシーンをお腹いっぱいたくさん見たいのに、前半は話が全然動かないし、肝心の合戦シーンは短く終わってしまいます。なので、この監督と制作陣にハリウッド大作ばりの予算が渡ったら、一体どんな合戦が観られるのだろうかとワクワクします。それとも、制限がなくなると逆に凡作になってしまうパターンでしょうか。なんであれ、邦画にもっと予算を!お金を下さぁぁぁい‼

飛躍を遂げたキャラクター再現度

日本における漫画実写化のキャラクター再現度は、ある時期を境に飛躍的にレベルアップした印象です。実写映画版『ジョジョの奇妙な冒険』ではまだコスプレ感マシマシでしたが、ドラマ版『岸辺露伴は動かない』ではもはやコスプレ感がなく、世界観もリアルとフィクションのちょうどよい塩梅で制作されていました。

洋画でもバットマンやスーパーマンが全身タイツ感を無くして、カッコいいアーマーに変遷したように、日本におけるこの辺の衣装や造形の発明には誰が多大な尽力をされたのか、是非とも知りたいところです。コスプレイヤーさんたちの活動も、滅茶苦茶研究の役に立っていそうですね。

今作でも全員が素晴らしい再現度で、コスプレ感なく自然に物語に溶け込んでいました。麃公のあのすっとんきょうなヒゲで、あれだけ格好良く魅せるなんてすごいことです。コスチュームだけでなく、おおげさになりすぎない演技法やダサくならないカメラアングル、化粧法など、様々な技術が研究されているのでしょう。アニメ大国日本において、この技術が進歩していくのは未来が明るくて素晴らしいですね。

ただ、全員の歯が真っ白だったのは、あの辺のリアリティはどうでも良かったのかな?春秋戦国時代にもホワイトニング技術があったという事にしておきましょう。

銀幕を支える役者陣の圧倒的なオーラ

これだけ制限が多く、物語の構成にも不満が生じておりますが、なぜお気に入り度〇かと言えば、それはやはり役者さんたちの魅力につきます。これだけ引き延ばしの多い演出も、眠たくなる会話劇も、役者さんたちのオーラがあるからこそ見れてしまう。とにかくかっこいい音楽と凝ったアングルで、将軍たちが腕組みをしてバーンと画面に映ったら、「まぁ、もうこれでもいいか」と許せてしまうのです。

それは誰にでもできることではなくて、やはり豊川悦司さんであったり大沢たかおさんであったり、積み重ねてきた長い役者歴があってこそ「間が持つ」のだと思います。他の面々も誰もが「見たことある!」と思えるキャリアである事が滅茶苦茶大事で、それが画面を飽きずに見続けられる理由に繋がる。これが無名の方々で、彼らがどれだけ演技が上手かろうと、この脚本では目も当てられないのではないでしょうか。

出演されている著名な俳優陣たちの、「この映画単体の演技力」というより、脈々と今まで他の作品群で培ってきた影響力の賜物ですし、そういう意味での日本の俳優陣の奥行きはものすごいものがありますね。ドラマにアニメにバラエティに僕たちが目にする媒体は非常に多く、なので、これだけ個性的で魅力的な役者さんたちが一同に介するだけで、一つのコンテンツとして成立します。役名もなさそうな一兵卒でさえ「見たことある!」と思える俳優さんが演じられていることは、本当に日本映像界の宝です。

特に日本の推し活文化というものは、このキャスティングと非常に相性が良いです。群像劇の中に誰かしら自分の推している俳優さんがいれば、それだけで楽しんで観れるのですから。

今作では、特に山田裕貴さんと坂口憲二さんの二人に一番惹き込まれました。恨みを一心に背負った万極を演じた山田裕貴さんの演技は素晴らしく、普段僕はがなる演技が苦手なのですが、彼の慟哭はわざとらしくなくあざとくなく、ストレートにズンと胸に響きました。息を引き取る瞬間の、狂気の目が光をもった人間の目に変わる様はすごかったです。

対して坂口憲二さんは、今作では全く見せ場がなく立っているだけなのに、あの異様なカリスマ感がすごかった。いつ裏切るかもわからない不穏さと、滅茶苦茶強いのだろうなと思わせる佇まいで、どこを切り取っても絵になりました。次回作での活躍が本当に楽しみです。

その俳優陣の魅力に頼りすぎない為に

逆に言えば、今作は俳優さんたちの力に頼りきりで、おんぶに抱っこすぎるという面も否めません。全く同じ脚本と演出で、無名の俳優さんたちが出演していたらこのようなヒットはしないでしょうし、ですが、そんな無名の配役でもヒットする映画が観たいなとも思います。なんとも難しい鑑賞後感です。

肝心要の俳優さんたちの魅力に特化した作りも、制作期間が長すぎると錆びついてしまうかもしれません。なんとか最新テックの力でより良いスキームで、上手くこのシリーズを完成まで描ききって欲しいものです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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