【アニメレビュー】「トイ・ストーリー5」

アニメ

【トイ・ストーリー5】

  • 鑑賞日 2026/07/03
  • 公開年 2026
  • 監督 アンドリュー・スタントン(共同監督:ケナ・ハリス)
  • 脚本 アンドリュー・スタントン、ケナ・ハリス
  • キャスト トム・ハンクス、ティム・アレン、ジョーン・キューザック、グレタ・リー、コナン・オブライエン、トニー・ヘイル、唐沢寿明、所ジョージ、日下由美、広瀬アリス、佐野勇斗
  • あらすじ ボニーのもとで暮らすバズやジェシー、フォーキーたちは、これまでと変わらぬ日常を送っていました。しかし、最新型の電子タブレット「リリーパッド」がやってきたことで状況は一変。多機能なデバイスに夢中になるボニーの姿を前に、おもちゃたちは自分たちの存在意義に疑問を抱き始めます。「おもちゃはもう必要とされていないのか」という不安が広がる中、仲間からのSOSを受けたウッディが再びボニーのもとへ戻り、バズと再会します。かつての名コンビは、おもちゃの居場所を守るため、新たな脅威に立ち向かいます。
  • ジャンル アメリカアニメ,ディズニー,ピクサー,アクション,アドベンチャー,ドラマ,泣ける,考えさせられる
  • 鑑賞媒体 映画館 ドルビーアトモス
  • お気に入り ◎(×、△、〇、◎の四段階)

感想

※本記事は『トイ・ストーリー5』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

近年のピクサー作品は、個人的に打率が低くて残念でしたが、さすがはスタジオの骨子たる『トイ・ストーリー』シリーズ!抜群のクオリティでした。

世間では否の意見が多い前作の『4』ですが、僕はシリーズの中で一番大好きな作品です。フィクションの創造物が自己の存在を定義するという、行き着く所まで行ったとんでもない仕上がりに圧倒されました。それはまるで『シン・エヴァ』のシンジ君のように、創造者の手を離れ、虚構の世界から実存の世界へと生まれ変わらせるイニシエーション。皆から愛され、だからこそ消費され続けるアイコンから、一人の人間として巣立たせるという、制作者の愛に溢れた最高傑作でした。

だからこそ、正直これ以上描くことなんてあるのだろうかと懸念しておりましたが、なるほど、そこの昇華がまだ残されていたのか!と、思わず劇場で膝を打ちました。

おもちゃの世界へ引き戻す見事なテーマ性

今作のテーマ性自体は、『3』や『4』のように概念そのものを大きく覆すような大掛かりなものではありません。しかし、逆にそのアプローチだったからこそ、前作にて行き切った主題から、再び観客を玩具の世界(フィクション)へ引き戻すことができたのだと感じます。この絶妙なバランスのおかげで、以降の続編が格段に作りやすくなったのではないでしょうか。おそらく4に否定的で3がベストだと感じる人には、最高の続編だったかと思います。

では、今作の主題が僕にとって軽いものだったかといえば決してそんなことはなく、そこにはしっかりと『トイ・ストーリー』の魂が込められており、見事に泣かされました。これまで描き続けた「自分の存在価値とは」という命題に対して、前作でウッディが出した答えとはまた別の方向性の答えを、今作でジェシーは提示してくれたのです。自己の解放を目指したウッディに対して、ジェシーは自分の存在を犠牲にしながらも、「魂の引き継ぎ」を選びました。

あくまで僕個人の解釈ですが、種をまくしかできない男性性であるウッディが「自己の解放」を望んだのと対照的に、子を生み分身を世界に残せる女性性のジェシーが「引き継ぐこと」を望んだのは、なんと示唆に富んでいて、とんでもない表現力だなと驚愕しました。

エミリーの写真が産み出す玩具達の宗教観

過去にも持ち主に捨てられてきたジェシーが、最後の望みのボニーにさえ拒絶され、「もうこんな思いはしたくないよ」と吐露する場面は、本当に胸が痛みました。しかし、その持ち主であったエミリーが、実は自分の娘に同じ「ジェシー」という名を名付けていたと知るシークエンス!よくぞこんなにも美しい場面を思いついたものだと、劇場で腰を抜かしましたよ。そうか…いずれ必ず打ち捨てられる玩具の人生というものを、こんなにも優しく寄り添うような解釈にしたのか、と。

たとえ飽きて捨てられたとしても、その時遊んだ記憶は大人になっても生き続ける。過酷な現実を生きるときの糧になる。誰かを愛する時、誰かに優しくするときの礎になっている。そんな残酷だけど、とてつもなく美しい帰着が描かれていました。

これはジェシーだけでなく、玩具全員がある種救われるであろう、宗教に近い概念が生まれたようなものだと思いました。過酷な運命から多くを救うためのノブリス・オブリージュや、輪廻転生に繋がる観念。前作で自己存在の定義を描き、ついに今作で玩具たちは宗教観をもつまでに至るというとんでもない進化。類人猿が火を覚え、共同主観が芽生え、ついには認知革命を起こした時の様な大躍進ですね。

見方を誤ると、結局1-3の頃の「玩具は人間に遊んでもらうのが使命なんだ」に戻っただけじゃないか、4の主題は全部無駄だったじゃないか、と捉えられてしまうかもしれませんが、あくまで今作のジェシーの昇華は、「今、一瞬」ではなく「死んだその先に証を残す」という死生観です。

これは現実の僕たちにも同義の超普遍的な主題。人間はただ生まれてただ死ぬのではなく、何かを他者の中に残したがるもの。それは子どもであったり、芸術であったり、教育であったり、思想であったり、様々なものを自分が死んだ後も残り続けていくことを信じて引き継いでいきます。

それは人類が存続していくために、あらゆる枝葉を伸ばしてあらゆる危険に対してサバイブできるようDNAに刻み込まれた本能なのですが、それを「エミリーが自分の娘にジェシーという名前をつけた」という、たった「一枚の写真」をもってすべて伝えてくれるという、とんでもない脚本力と演出力!これこそがまさにピクサーですよ‼

このレベルを『星つなぎのエリオ』にも求めてしまうのは、酷なのかしら…

映像技術のブラッシュアップとAI失業への解

映像に関しては前作の時点で、すでにCGクオリティは頭打ちだろうと思っていたのですが、今作ではさらにブラッシュアップされてました。リリーパッドの目の部分だけをドットで表現するような細かいこだわりには、「すげー!」と素直に感動。僕はゲームで言えばファミコンからPS5まで、携帯電話ならガラケーからスマートフォン、音楽ならレコードからサブスクリプションへと、常に技術の進歩と一緒に成長してきた世代です。かつて『ジュラシック・パーク』で度肝を抜かれたCG技術が、2026年の今もこうして新しい感動を与えてくれるなんて、本当に感慨深いですね。

また、子どもたちが遊んでいるゲームも、例えば『マインクラフト』や『レゴ』のような創造性を刺激するものではなく、単純に指示されたものを追いかけたり、脳死状態で反復運動をさせるようなゲームばかりだったのが、とても怖くてリアルでした。とにかくアドレナリンを出させる為のガチャ要素もあったり、ネットの友達との同調圧力に怯えたり、ボニーのような幼い子がそのような世界で人生をスタートさせるのですから、その心労たるや、もう完全に僕らの子供時代とは違うんだと痛感しました。

おもちゃたちがAIに駆逐されていく様は、今世界中で起きている労働者たちがAIによって失業する描写そのものだと思うのですが、今作は残念ながら、その解を提示するまでには至っていません。落としどころとしては、デジタルもアナログも両方大事に、バランスをとって生きていこうねという、ちょいファンタジーな結末なのですが、ただ、現時点においてはこれでベストと思います。

なんせ肝心の現実がまだまだ答えを探し中なのですから、下手な解を作中で描くわけにもいきません。ある程度AIもこの先落ち着き、人間がその付き合い方を学んだとき、もしかしたら『トイ・ストーリー6』でその解を描いてくれるかもしれませんね。

一線を越え始めたおもちゃたちと、極上のエンターテインメント

今作で明らかにおもちゃたちは、人間の見えないところでド派手に行動し、嘘をついて人間の意志そのものまで変えようと能動的に動きます。今までのシリーズの、あくまでおもちゃとしての範囲で動くという一線を明らかに超えていました。バズの集団にいたってはキャンプ場で物騒な凶器をそれぞれ手に持ち、あわや人間を殺そうとまでする意志を持っておりました。

一応今作では、「玩具として人間の記憶に残ることが大事」といった暖かな落としどころに落ち着きましたが、玩具たちの自立的な行動の数々は、現実のAIの危険性そのものとして、次回の恐ろしい伏線のようにも思えます。

ただ、小難しいことも色々と書きましたが、そこは天下のピクサー!ちゃんとメインターゲット層である子供達が楽しんでくれる、極上のエンタメに仕上がっています。おもちゃたちの動きはそれぞれとてもコミカルで愛らしく、ジェシーにいたっては本当に声優さんも含め、動き一つ一つに感情がこもっていて素晴らしかったです。今作で一番好きなキャラクターになりました。

笑い所もたくさん用意されていて、特にウッディとバズは無機物だからリリーパッドのタッチパネルに反応しないので、ボニーのペットのトカゲを連れてきて、その手で触らせるところは、思わず劇場で吹き出してちゃいましたよね。「OK、リリー」と声をかけると、自分の意志とは関係なくリリーパッドが強制ストップしてしまうところも僕らの日常と地続きで、とても良かったです。

世代を超えて響くピクサーの超絶技巧

まずは、絵と動きと音楽で一番楽しませたい子どもたちを夢中にさせる。それでいて裏テーマとして、一緒に見に来た大人たちも深く感動し、涙を流させる。通常は、子供は子供向けアニメ、大人は大人向けアニメと、どうしてもどちらかの方向性で制作しないとどっちつかずになってしまうものですが、計算尽くされた脚本と演出でその両者を満足させてくれます。この芸当は、本当にスタジオジブリとピクサーにしかできないものであり、心から感服いたしました。

初めて予告を観た時は、電子タブレットによってアナログ玩具達が追い出されるというプロットに、「今さらテックを露悪的に描いて、昔の暮らしに戻ろう」系プロットを作る訳?と怪訝になりましたが、しかし、あのピクサーがその様な底の浅い物語を描くとも思いませんでした。いやぁ、信じて良かった。

1から5までその都度新しい気付きを僕達に与え、毎回前回のハードルを越えてくるという偉業を成し続けた「トイ・ストーリー」。次作の事を考えると制作陣は夜も眠れないプレッシャーかと思いますが、次回も驚くような気付きを与えてくれることを期待して首を長くして待っております!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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